設計TIPS   受信機に関連したことを解説します

Last Modified; May 05 2002


DBM    局発レベル   S/N   トータルゲイン    AGC   妨害信号(1)   妨害信号(2)   感度  

AGC(2)   DUAL GATE      ゲインコントロール      ノイズブランカ(1)    ノイズブランカ(2)    BC帯  


DBM 02/27

ダイオードを使用したDBMは、局発を充分注入すれば通常約6dB程度のLossと言われている。 私も長い間何の疑いもなく事実のみ受け入れていた。 しかしよく考えてみるとダブルバランスドミクサーの動作においては、信号と局発を混合した際に出てくるのは、和、差の両方の成分であり、 使うのはそのどちらか、すなわち半分(3dB)の電力を捨てている。 そう考えると6dBのうち約3dB程度がトランスやダイオードのスイッチングの損失による物である。これが各素子の損失合計の妥当な所と思う。

送信機においては、この逆側ヘテロダインの成分はスプリアスになって現れるから、忘れられることはあまりない。 受信機における動作を考えてみる。 この場合はイメージ周波数の受信となって現れる。イメージ比自体は高周波増幅の前、 フロントエンドでバンド毎のフィルターや、トラップその他で稼げばいいと考えられる。 しかしこの構成(イメージに対して選択度を持たないアンプとミクサーの組み合わせ)には陥りやすい大きな罠がある。
広帯域の受信機においてDBMの前、すなわち高周波増幅回路は当然広帯域のアンプである。 このときこのアンプ自身がイメージ周波数においてゲインを持っていればどうなるか?  このアンプの内部雑音のうち、目的受信周波数とイメージ周波数の両方の成分がDBMに入力され、IF周波数に変換されてしまう。 最初に述べた捨てるはずの半分を拾ってしまっているのである。ランダム雑音が電力として3dB上がることになる。 したがって見かけ上高周波アンプのNFが3dB悪くなって現れる。(感度が落ちる)。いい例がダイレクトコンバージョンの受信機である。 これに高周波増幅をつけても感度はある程度以上には上がらない。

これを防ぐにはDBMへの入力に、イメージ周波数に対して感度を持たないようにするしかない。 すなわちDBMの前にイメージを落とすフィルターを入れることとなる。  またこのフィルターは局発の漏洩に対しても有効になるようにする。 もう一つの方法として、SSB発生によく使われるPSNの技術を使う。逆ヘテロダインと局発の成分を位相でうまく打ち消して処理してしまうのである。 高い周波数から一気に低いIFに落とすレーダー受信機は、高周波増幅とミキサーがイメージ比を期待できないからこの方法を採用している。 SBMを使用する場合はイメージ周波数以外にも、IF周波数に感度を持つのでさらに要注意である。 これらから考えても広帯域受信機は、イメージと局発周波数を受信周波数から離して一元的に処理できる、アップコンバージョンが断然有利となる。 通常言われるスプリアス特性ももちろん有利である。  

IF周波数を変えて、ミクサーに強烈な3信号を入れてみたことがある。 この3信号と局発により生成される信号は、その非直線性のために目的IF周波数の周辺に数え切れないスプリアスを生じる。 しかしこの数はIF周波数が高いほど断然有利であった。その量と数はIF周波数に反比例、IFの帯域幅に比例する確率論になってくるのである。 強力な多数の信号を受信する実際の使用環境においてはどうなっているのか、正直言ってぞっとする思いである。

補足(2002年5月4日)  
局発側の信号を正弦波として乗算動作をさせた場合は、上記のように3dBの損失です。しかし局発側信号を矩形波として乗算動作をさせた場合は、その奇数次高調波に対しての和、差の成分が生じます。この場合の損失は矩形波をフーリエ変換して計算すると、3.92dBとなります。実際のダイオードDBMでは完全に飽和させた矩形波にはなりませんから、この中間の損失では無いかと思われます。

 

局発レベル 03/03

この話はDBMの項を完全に理解してから読んで欲しい。
HF帯ではフロントエンドにDBMを採用した受信機は結構多い。 高周波増幅せずにダイレクトにミキサーに入れてもHF帯で必要なNFはある程度確保できるし、大入力に強い受信機とすることができる。 また高周波増幅としてもあまりゲインを取らない方がミキサーの歪に対しても有利である。 DBM自体も大入力に強い物をという事で局発レベルは高い物で+10dBm以上必要とするものを使うことがある。 3rd IPは必要な局発レベルの約8dB程度上にある。
しかしこれだけの大レベルを入れるといろいろの所で問題が発生する事が考えられる。 まず考えられるのはこの局発のレベルがアンテナから漏洩すること、内部でのスプリアス生成による自己妨害である。 しかし他にもあまり知られていない問題がある。

視点を変えてフロントエンドの所は無視して、DBMの受信機の構成をもう一度見て欲しい。 そこには第一局部発振回路をフロントエンドにし、SBMのミキサー(局発と信号が同じ所から入る)を持った受信回路の構成が見えてくる。 (局発入力側ポート自身が信号と局発入力になる)。 しかしこの構成はDBM自体に局発入力ポートに対してのアイソレーションがあるために、感度としては相当悪くなる。
アイソレーションは物とポートの使用法によっても異なるが、20-40dB程度ある。仮に30dB程度としよう。 すなわちDBMの局発入力端では、信号入力ポートからの感度に対して約25dB程度悪い計算となる。(DBMの信号損失6dB程度を引く)。 しかし局発ポート側からの受信構成には、局部発振増幅回路という名の高周波増幅回路が付いている。 ここで局発レベルを例えば+10dBmの大レベルを必要とした場合、この局発増幅回路のゲインは高く必要で20dB以上必要となってくる事が多い。 そう、ここで信号側と局発側の両者の受信構成に感度差はあまりない。
これは0dBm程度の局発ではあまり問題にはならなかった。局発レベルが高く必要で局発増幅回路に高いゲインが必要となったために マージンがなくなったのである。同じレベルになってしまえば雑音が3dB上がるためこの両者にはマージンが必要なのである。

ここで前のDBMでの話を思い出して欲しい。広帯域の受信機の局発増幅回路は当然広帯域アンプである。 これをこのままミキサーへ入れてしまうと、今度はこの局発増幅回路の内部雑音のうち、イメージ成分と受信周波数成分、 IF周波数(スルーで通過する)の成分を考えなければならない。結果的にはみかけ上6dBのNFが上がりさらに悪くなる。 しかもフロントエンドにあるのは、位相雑音で悪名高いPLLの発振回路である。
したがってここにもフィルターを入れ、局部発振周波数のみを通過させるようにする事と、PLLの位相雑音を相当下げないことには雑音が上がってくる。 しかしラジオ帯などの低い周波数を受信する場合、IF周波数と局発周波数がごく近くなってしまいフィルターで除去できないから、 IF周波数の雑音成分は除去する事ができない。 もう一つの対策として、DBMのバランスを取るなどしてアイソレーションを上げることが必要となってくる。 この構成の受信機で長波帯を聞いてみると、そこには局発の近傍周波数での位相雑音を聞くことができる。
ミキサーとしてDBMではなくSBMを使用した場合、ポートの使い方によっては局発に対してアイソレーションを期待できないから、 この構成では大電力局発のダイレクトミキサー方式の受信機は雑音が非常に高く、実用上難しい構成ということである。

 

S/N 03/18

S/N(Signal to Noise Ratio)比はSNRとも呼ばれ、信号対雑音比の事である。この比が10dBの所が感度と呼ばれている。 しかし現在無線界において感度をS/N表記で測定しているのは、アマチュア無線機、それも振幅変調系(SSB,AMなど)ぐらいである。 FM、業務系ではほとんどがSINAD(SIgnal to Noise And Distortion)で測定されている。 これはnoiseや信号の高調波などの目的信号以外の成分をすべて歪みと見なし、歪率という観点で表したものである。 通常感度はSINAD12dB(25%) ヨーロッパなどでは20dB(10%)の時のSG開放端入力信号レベルで表す。 アマチュア無線機では見かけが良いように感度は負荷端レベルで表すから、 この差は6dBありさらにS/NとSINADの違いから8dB程度の差が出るようである。
さてSINADの読み方であるが、よくシナッドなどと呼ばれ一部の測定メーカーでもそうであるようだが、 私たちはサイナッド、サイナード、一部でサインアドと読んでいる。英語的観点からはこちらの方が正しいと思う。  

AM感度をS/N法で測定するのは割合に面倒で、30%の変調信号をON/OFFしその差で測定する。 信号の入力レベルを変えるとこの両者が変化するからいちいち低周波出力レベルを合わせ直さなければならない。
そこへいくとSSBは簡単で、まずノイズのみを定格出力の10dB下のレベルに合わせておいて、 信号が入力時にちょうど定格レベルになるようにSG出力を調整すればよい。 さらにAMの感度であるが、S/N法で測定した場合感度が悪く出る場合がある。 これはSSB機においてはAMの感度レベルがAGCの立ち上がり部分にひっかかってくるために起きる。 AMの変調ON時とOFF時とでAGC量が変化する、すなわち受信機のトータルゲインの変化が起きる。 AMの30%変調時はその振幅が無変調時の1.3倍になるからである。この時はAGCをOFFして測るか、SINAD法で測る方がよい。

SSB受信機においてS/N 3dBの点にはある大きな意味がある。 S/Nすなわち(S+N)/Nが3dBというのは、電力で考えた場合S=Nの点である。 すなわちその受信機の内部雑音レベルと、SGの入力レベルが一致した点で、これにより受信機のノイズフロアが測定できる。

SSB受信機のダイナミックレンジというのがある。 これは内部雑音レベルと3次IMD成分が一致した点を測定し、入力換算の内部雑音レベルとの差をもって表す。 ダイナミックレンジ内であれば、強力な2信号による3次IMD成分は内部雑音レベル以下(S/N3dB以下)ということになり、 別名スプリアスフリーダイナミックレンジのいわれがそこにある。
メーカー発表のダイナミックレンジは、帯域幅500Hz程度のIFフィルターを用いて測っている例が大半である。 中にはオプションにもない250Hzなどのフィルターを用いている例もあった。 これは狭帯域フィルターを使用した場合、帯域内のノイズが下がるから(ノイズ電力は帯域幅に比例する)感度が上がる。 感度が上がった場合、ダイナミックレンジを決めるための信号とIMDのレベル直線は下にのびるから、 ダイナミックレンジが見かけ上増加するからだ。 例として帯域幅が1/4になれば感度は6dBUP、IMD成分の直線は傾斜3であるからこの点は2dB下がる。 従って結果として4dB程度ダイナミックレンジが増加することになる。

 

トータルゲイン 03/25

受信機のトータルゲインについて考える。
受信機のオーバーオールの電圧ゲインは受信感度レベルの信号を最終的な低周波電圧でどこまで増幅するかを考えればよい。 FMの場合はリミッティングレベルまでの増幅度と、デビエーションによる検波感度から、 無歪み最大出力をたとえばAFゲインの2−3時ごろになるように低周波ゲインを決めればよい。
SSB/AMの場合はAGCがあるから話は少し複雑になってくる。 感度のレベル、たとえば0.2uV程度をVR最大で1V(内部雑音で300mV程度)にするのであれば、 トータルの電圧ゲインは1/0.2uVで約130-135dB程度必要ということである。 もうひとつの規制要素はAGCがかかって受信信号が一定出力になったときに、 内部雑音に対してこの定出力のレベルを雑音に対してどれだけ上に取るかである。 最近の市販のSSB機は内部雑音に対して25-40dB程度である。 実はこの比をどれだけ取るかにより受信機がノイズっぽいと感じたり、感度不足に感じたりするのである。

実使用時のオーディオゲインはAGCのかかった一定レベルの信号に合わせて聞くから、 その信号がなくなったときには雑音のみを聞くことになる。このときこの雑音が少ないと静かな受信機と感じるか、または感度が低いと感じるのである。 反対にノイズが多いと雑音の多い受信機と感じる。たとえばモービルなどの周囲雑音が多い環境で使用する場合は この差が少ないほうが音量の変化は少ないから聞きやすいし、静かな家庭環境で聞く場合は小さな音でも充分聞き取れるから差を大きく取ったほうがいい。 トランスバーターやプリアンプを入れて受信機の前にゲインを取ると、雑音出力のみ増えるからこの差はどんどん少なくなってくる。

AGCがかからないときと深くかかったときの各段のレベル、特にミキサ入力に注意してゲイン配分を考える。
あとはレベル的に検波器への入力レベル、およびその前段のIF終段のレベルが要注意である。 AGCの検出はIF最終段もしくはまれに低周波で行うから、AGCのかかった強度の信号ではIF最終段のレベルはほぼ一定になっている。 IF最終段はIMDに気をつけてできるだけレベルの高いほうが雑音抑圧の点で有利である。 したがってP-PでV単位のオーダーでIMが高くならないようにAGC電圧検出の立ち上がりを設定する。 したがってここまでのゲインは120dB程度必要となってくる。
内部雑音とAGCのかかったレベルの差を規定するためには、IFのどこかの段でトータルのゲイン調整により内部雑音の出力を決める。 またAGCの検波整流動作が信号に対して負荷になり歪みを発生させないようにする必要がある。

SSB検波器への入力はやはりIMDに注意して、このIF終段の高いレベルから充分落として適正レベルとするのである。 あとは検波器出力から必要な低周波段のゲインは決まる。
AMの検波はできるだけ検波器へのレベルを高くとり、ダイオードの立ち上がり歪に対して有利なように、 また検波器自身が信号に対して負荷になり歪みを発生させないようにさせる必要がある。
AGC回路、AMの検波が信号の負荷になり歪みを与えないようにこれらにフォロワなどを入れる場合が多い。 またSSBは尖頭値、AMは平均値型AGCであるから、AGCの違いからAM100%変調時の振幅はSSBの2倍になるので AMモードを持つ場合は各段のレベルに注意が必要である。

 

AGC 03/22

またこの差はSメーターの振れにも関係してくる。一般にSメーターはAGC電圧を利用して振らせている。 受信機のSメーター電圧の立ち上がりはこの差で大きく変化する。 たとえば先の例のように感度が0.2uVであれば内部雑音は10dB程度下の約0.06uV、 差が30dBであればAGC電圧の立ち上がりポイントは2uV付近である。 これは開放端電圧(EMF)で4uV、12dBuVである。S9は100uVEMF(40dBuV)と決まっているから、 S0から9までの間は28dB、すなわちメーター1個分は3dB程度になるのである。
なぜAGCをSメーターに使うのかというと、AGCなどでの圧縮のかからない信号出力レベルを検出してメーターを振らせた場合、 検出された電圧は直線的に変化し、AGCがかかるとこのレベルが頭打ちになる。直線部分はメーターのダイナミックレンジは非常に狭い。 いい例がFM受信機のSメーターである。
しかしAGC電圧を利用した場合は被制御素子の利得変化の特性に依存し、 これを対数特性に近いものとすることができるためにレンジが非常に広くなるためである。 AGCによるバイアス対ゲインの特性が対数的に直線変化するような素子、バイアス点を選ぶ。

さてAGCの立ち上がりは10-20dBuV(EMF)付近と決まった。次に必要なのはAGCのダイナミックレンジである。 AGCがどこまでの大信号に対して出力を一定に制御するかであるから、たとえばこれをS9+60dBとするなら80-90dB、 実際には100dB程度以上の制御が必要である。 たとえばFETなどの素子にAGCをかけると4段程度必要となる。 3段でもぎりぎり可能なレベルかもしれないが、 あまり深く制御をかけるとFETから取り出せる出力が減って歪みや飽和してしまう恐れがあるから余裕が必要である。
実際強信号で多量のAGCをかけた場合、AGCのかかった最初の段での出力が飽和する場合がある。 これはSSBのシングルトーンではあまりわからないかもしれないが、変調のかかったAMだとすぐわかる。 AGCが深くかかると各段の増幅度は0dBより下がるから、それより後ろの段はレベル的には下がるので初段に比べると余裕がある。

AGCの立ち上がり(10-20dBuV)付近まではAGC電圧が発生しないように、AGC回路の動作する整流電圧を決める。 高い方が温度変動などに対しては有利である。 AGC回路のゲインは、先のAGCダイナミックレンジをカバーするためのAGC電圧の変化量を検出された整流電圧の変化量で割ると算出される。
たとえば100dBのAGCをカバーするためにAGC電圧の変化が3V必要で、AGC電圧の直流増幅回路のゲインが20dBあれば3V/20dBであるから、 AGCの整流電圧は0.3Vの変化が起きることになる。この0.3Vでオーバーオールの低周波出力がどれだけ変化するか? 
たとえばAGCの立ち上がり整流電圧が2Vとして、100dBのAGC量をかけたときは0.3Vの変化を生じるから2.3Vになる。 すなわち低周波で約15%の音量増加となるのである。

受信された信号は狭帯域のフィルターを通過すると、その群遅延特性のために時間遅れを生じる。フィルターが狭いほど、 またフィルターエッジではこの群遅延量が非常に大きくmSECのオーダーである。
先のAGC電圧を各段にかけた場合、受信機の初段に近いほどこの抑圧効果に時間遅れを生じる。 抑圧された瞬間には効かないで、抑え込まれた信号がフィルターなどを通過し遅れてから効果がでる。
AGCの検出回路は一番後だからこの時間遅れで抑え込まれた信号で今度はゲインを増加させるから、 増減の繰り返しでレベルの振動が起きることになる。このためAGCは初段に近いほど、その使用するフィルターに合わせて遅延して掛けるとともに、 平均値に近い動作をさせる必要がある。
また最終段に掛けるAGCは時間遅れがなく効果がでる。 しかしここも完全なファーストアタックにしてしまうとパルス状のノイズに対して一瞬にしてゲイン低下をしてしまうこと、 AGCの復帰時間の間はゲインが戻らないので、前段AGCの時間遅れで効いてくる効果に対しての緩衝分を持たせなくてはならない。
CWのような断続波形に対して、AGCのかけ方により様々な波形が再現される。 またチャージするコンデンサの容量とその検出回路自身の瞬間的なチャージ能力の問題もある。 静的には一定になるAGC電圧も、動的動作、アタックからの時間的には非常に複雑な動作をしているのである。
AGCの復帰時間とこのあたりのアタック時間、オーバーシュートの許容量、時間遅れの配分が、 大きく好みの分かれるところであり、 非常に設計の難しいところでもある。

 

妨害信号(1) 04/29

受信機において目的信号に混信・妨害を与えるものについて考える。 一般的には強入力で起きるものを何でも混変調などと呼ぶ風潮があるが、本来の混変調とはごく一部の現象であり、 FM,SSB全盛のこの時代でははっきりしないことが多い。その他妨害の現象、原因についてあまり知られていないものも結構ある。 今回はそのうちで目的信号以外の強力な1信号で起きるもののみについて考えてみる。

まず当然代名詞になっている混変調(Cross Moduration)である。これは主に受信機の2次歪みによって起きる。 振幅変調の電波形式のもの同士にのみ起きる現象で、目的信号に強力な妨害信号の変調が混じり、同時に聞こえてくる。 妨害波の変調での振幅変化が原因である。
その動作からSSBでは妨害波の変調をきれいに復調できないが、AMではきれいに同時に聞こえる。 妨害信号が大きくなってくるとそちらの変調の方が大きくなるから、聖徳太子にでもならないかぎり了解困難となる。 FM波ではこの目的信号の振幅に混変調がかかっても全く復調されないため実用上は問題ない。 しかしこの現象は同時に感度抑圧(Blocking)を生じている場合が多い。これはFMでも問題になる。

スーパーへテロダイン方式の最大の欠点がイメージ妨害である。 ミキサーで周波数変換する際に目的周波数以外の逆側ヘテロダインも同時に変換されるために生じる。 特に昔の受信機の様に455KHzの低いIFではハイバンドにおいては和差の周波数間に全く選択度がとれない。
また最近のHF機のIFは40MHz帯もしくは70MHz帯であるが、このIFによるイメージは80-120MHz、140-180MHzであり それぞれFM,TV帯、アマチュア、業務無線帯の強力な信号が多いため、満足な特性のためには100dB近いイメージ比を必要とするため 結構大変である。 また周波数変換は2回、3回と行うから、それぞれのIFに対するイメージ比はその前のIFの選択特性に依存する。

またIF周波数そのものに飛び込むIF妨害もある。 特にIF周波数と目的周波数が近い場合は、選択特性のうちのフロントエンド部分は期待できないためIF妨害比は下がってしまう。
昔風のコリンズタイプのヘテロダイン受信機は1段目のIFが低いこと、 そのIFが受信周波数帯の間にあるためにフロントエンドでこの1段目のIFに対して一律に選択特性を稼げない、 また1段目のIFの選択特性があまり期待できない(可変IF)ため、2信号的にも次段のイメージ比に対しても非常に不利である。

フロントエンドでのアンプ、ミキサー等の歪みは2倍、3倍・・・の整数倍の高調波を生じるため、 目的周波数の1/2や1/3で強力な信号があれば受信してしまう。 そのため目的周波数より下の周波数に対して充分な選択特性が必要である。 この1/2,1/3での妨害信号は、当然妨害信号自体に高調波を含んでいることもあるから、どちらが原因かわからないこともある。

また目的周波数でなくてもIFの整数分の1の周波数で強力な信号が存在すれば、アンプ、ミキサーで高調波を発生して妨害になってしまう。 (ミキサーはIF周波数に対しても何らかの感度を持っている)
このため40MHz帯と70MHz帯のIFを比較した場合、IFの1/2の周波数が受信周波数帯に存在しないため 選択度を稼げる70MHz帯のIFが絶対に有利である。 次回に述べるが2以上の組み合わせで発生するスプリアスに対しても、IFは高い方が完全に有利である (アマチュア向けの本の中には、どちらもスプリアス特性は一緒などと書いてるものが存在する)

イメージ妨害と高調波歪みが加わったようなものがある。受信機のフロントエンドが広帯域である場合、 目的信号周波数と局部発振周波数の間のちょうど真ん中に強力な信号があれば妨害が発生する。
この妨害信号と受信機の局部発振が混合され、出てきた周波数に高調波 (または局発と妨害波の3次のIMDの関係がIF周波数になる)が発生するために起きる。
俗にハーフイメージと呼ばれているが、もちろん3倍、4倍(5次、7次IMD)も発生する。当然高次になるほど発生するレベルは低くなるし、 この妨害波に対しても選択度が稼げるから一般にはハーフイメージが特に問題になる。これらはV/UHF帯での広帯域の受信機で問題となる。

その他、受信機の局部発振器はヘテロダイン型PLLで作られたり、その他の局発が回り込んでスプリアスを持っていることがある。 特に2回3回と受信信号や局発を変換して作っているために、多数の強力な信号を扱っているから、それぞれの高調波、 IF周波数の関係で直接妨害となったり(自己妨害スプリアス)、局発に含まれたスプリアスと強力な外部の信号、IF周波数の組み合わせで 思わぬ周波数で妨害が発生するのである。

 

妨害信号(2) 05/03

続いて2つ以上の強力な信号によって起きる妨害信号について考える。

相互変調(Intermoduration)はよく知られている。
2つの強力な信号が存在したとき、その2つの信号の周波数の間隔で上下に並ぶ妨害信号である。 一番近いものから上下にそれぞれ3次、5次、7次と奇数の相互変調となる。 この現象からいけば、FM帯などで等間隔に割り当てられるチャンネル設定は一番不利な状況と言わざるを得ない。
この周波数を2つの目的信号f1とf2で表すと、3次は2xf1-f2、2xf2-f1、5次は3xf1-2xf2、3xf2-2Xf1となる。
それぞれ3次と5次の歪み(積)から起きる成分である。では偶数次の歪みはどうなるか。
これは2倍高調波(高調波については前回述べた)や2次の相互変調、f1+f2やf1-f2などである。 しかし通常これははるかに離れた周波数である(ただしf1-f2は低周波のビートになったりする) ため問題にはなりにくい。同様に奇数や偶数でも目的周波数から離れたものはあまり問題になりにくいため、 周辺に現れる一部の奇数の相互変調だけが注目されるのである。

2次の相互変調の例としては1.9MHz帯の前後に現れる、中波の2つのラジオ放送局の和(例えば大阪での例でいうと、 朝日放送1008+NHK第2 828KHz=1836KHz)の周波数がある。 ここでは両放送局の変調が同時に聞こえるため混変調と似た現象となる。違うのは聞こえてくる周波数には本来の信号が存在してないことである。
ローバンド帯の受信機は、使用するアンテナの長さが非常に長くなるためアンテナの実効高(実効長)が大きく、 また放送局の出力も高いから、ハイバンドに比べて受信電力は遙かに高くなる。このために受信機の動作は非常に厳しい。
これらによる歪みを抑えるためには、BC帯の強力な電波を排除するHPFが必要となる。 またBC帯を直接受信する場合は3次の相互変調のレベルも大きくなるために、ATTなどを入れてBC帯の感度を抑えてあるのである。

これらはIP(InterceptPoint)という仮想の入力レベルで表すことにより、その受信機の性能の評価が可能である。 一般に一番問題になる3rd IPはよく紹介されるからご存じの方も多いと思う。

その他にも2次や3次がIFの周波数に当たる場合もある。
実際に私が遭遇した例としては、2つの強力な信号がちょうど455KHz離れた周波数に存在した時に、この周波数周辺ではどこに回しても この2局が聞こえてきたことがある。IF(455KHz)の成分が2次のIMDで発生したためである。
これは差の周波数が2nd IFに当たって起きた現象であったが、和や差が1st IFになる周波数の組み合わせは無限に存在する。
実際の電波は2つではないし、3つ以上の信号の無数の組み合わせがある。IF周波数に関係する妨害は、 IF周波数が目的周波数から離れれば、それだけで低次のものは減って確率が下がってくるし、それらに選択特性をとれるから高ければ高いほど有利となる。

 

感度 05/14

S/Nの項やトータルゲインのところでも述べたが、別の面から受信機の感度について考えてみる。

アマチュア用無線機は立派な受信機である。音質を除くと一般に手に入る最高級の受信機であると言っても良いぐらいである。 しかしこのアマチュア無線用の受信機に、数m程度のワイヤーアンテナを接続してもあまりうまく受信できない。ラジオ帯などは最悪である。 ところがトランジスタラジオではロッドアンテナなどで短波帯も非常に感度よく受信できる。 アマチュア無線機のほうがはるかにゲインが高く、 回路構成など性能上すべてにおいて上のはずである。
あるアマチュア向けに書かれた専門誌ではこれを検波回路のせいにしていたが、 そもそも受信感度はフロントエンドから見たNFと帯域幅で大勢が決まってしまい、ゲインさえ充分取れていれば、検波回路などは感度にほとんど影響ない。 (ただしダイオード検波が適正なレベルで設計されていればの話である。聴こえなくなってしまえば感度の話ではなくなる)
NFでの感度の考え方は、その受信機のオーバーオールでの受信帯域幅と、トータルでのNFが決まれば受信感度が決定する。 このとき受信機などの出力は直接には関係ない。耳に聞こえるまでのレベルになっているかどうかの差だけの問題である。 絶対量ではなくノイズとの相対比である。
これはフロントエンドにNFの良い、ゲインのある高周波増幅回路を持ってくれば非常に良くなる。(プリアンプ)
100dB前後増幅した後の検波回路でのNFは、トータルのNFにはほとんど影響しない。   DBMをフロントエンドにした受信機でもNF10dB程度であり、ローバンドでは充分な感度である。 一般にBC帯では10-20dB程度のATTを入れるが、それでもトランジスタラジオなどに比べてもはるかに高感度が取れるはずである。

一般に波長に対して非常に短いアンテナは、低い抵抗成分と高い容量性リアクタンス、さらに接地抵抗などを持つ。 このためインピーダンスとしては非常に高く、これにアマチュア無線機などの受信機入力部を50Ωで設計した受信機が接続されると、 受信電圧は極端に下がってしまう。
以前に述べた”整合”を考えてほしい。高いインピーダンスを持つものに低い負荷をつなぐと、取り出せる電圧も電力も下がってしまうのである。 トランジスタラジオなどでは、もともとロッドアンテナやバーアンテナの高いインピーダンスを持つものに対して合うように、 受信機入力部のインピーダンスを高くしてある。 そのために誘起された電圧が下がらない。 受信機への入力電力で考えるとアマチュア無線機のほうがはるかに感度が良いし、フィルターや2信号特性などがしっかりしているが、 受信機入力がショートワイヤなどには適していないのである。

受信機での内部雑音電力は帯域幅に比例する。 従って帯域幅が2倍になればNFは変わらなくても感度は3dB悪化する。 例えばCWフィルターを入れると、SSBフィルターに比べて内部雑音が下がるから実質感度が上がる。 しかし信号出力はAGCで一定になるが、無信号時のノイズが下がるため聴感上は音量が下がって聞こえる(感度が下がった様に聞こえる)  実際にもフィルター損失が増えてメーターの振れが落ちるものがあるが、NF的にはほとんど変わっていないはずである。
またこの帯域幅はIFで制限しようと、AFで制限しようと直接には関係ない。 従って見かけ上感度をあげるにはSSBの帯域幅3KHzではなく、もっと狭いオーディオ特性(高音を落とす)であれば感度は上がるのである。
厳密に言うと帯域制限する場所により若干差がでる。これも先のアマチュア向け専門誌に書かれてあったことだが、 「変換回数の多いものほど、ノイズがつぶれて聞こえる」という記述があった。
「つぶれる」という表現は実態を正確にわかっていないから良くないが、こう思うのもはわからないことでもない。
これはどういうことかというと、シンプルな構成の受信機は構成上、最終のIF段でのゲイン配分が高い。 IFフィルターは最終IFの比較的前の方に入っている。 すなわち帯域制限されたIFフィルターより後ろのゲインが高く、そのために後段でのノイズ(帯域制限はAFだけ、シャーという高い音)量が比較的多い。 しかし変換回数の多い機械は、シンプル機に比べ構成上余裕があるために前段へのゲイン配分が多い。そのために前段でのノイズが比較的多くなる。 IFフィルター前段の帯域制限されたノイズ成分は音として低く聞こえるために、「つぶれた・・・」の表現になるのである。

メーカー機のAMの受信感度の定格を見てほしい。SSB感度に比べると相当低い定格が書かれてある。
この原因の一つには測定法の違いがある。SSBはSGの一信号の出力でS/Nなどの感度を測定する。 AMでは30%変調時の感度測定である。この両者をエネルギーで比べてみる。
SSBはSG出力を全エネルギーとして検波し復調信号とする。 AMではキャリアと両サイドバンドが存在する。 AM100%変調の信号は、SSBシングルトーンのエネルギーの1.5倍である(PEPは4倍、平均電力は150%) 。 復調に寄与するエネルギーは、キャリア分を引くとシングルトーンの50パーセント(-3dB)にしかならない。 測定時は30%変調であるから100%時に比べさらに約10dB下がる。すなわち測定法の違いと、復調に寄与する成分により約13dB下がることになる。 さらにAMは帯域幅がSSBの約2倍以上である。そのため約3dB受信感度が下がる。トータル約16dB、AMはSSBより感度定格が低くなるのである。

実際にはカタログ上16-20dB程度の差を取っているようである。。 しかしこれも前述の専門誌の解説によると、「SSBはゲインのある復調器、AMはゲインのないダイオード検波であるから感度が悪い」などと書かれてある。 SSB検波器にはダイオードなどによるゲインのない物もあるし、ゲインのあるものでも実際はIMの良い動作点に収まるように入力で大きくレベルを下げてある。 すなわちここは各検波器の動作に有利なレベルに合わせる事がなにより大事な事である。さらに誤解している記述があった。 この検波の前にエミッタフォロワーなどの回路をおくことは常套手段である。しかしこれを後から追加してS/Nが良くなってるような記述があった。 これはダイオード検波やAGCの検波回路を直接増幅段に接続すると、インピーダンスを下げてしまいゲインが下がって必要なレベルが得られなかったり、 ダイオードによる負荷の非直線性のために歪みを生じる事、検波器の局発漏洩のためのアイソレーションのためで、電圧ゲイン的には0dBであるし、 何度も言うようであるがここでのゲインの多少は感度にはほとんど影響しない。

余談であるが、ここでトータルゲインAGCで述べた設定を思い出してほしい。 AGCのかかりはじめはノイズフロアより約30dB程度の上の所であった。SSB 10dB S/Nの感度より16dB高い信号は、ノイズフロアに対しては約26dB高いことになる。 ということはAM30%変調波で感度測定すると、AGCがかかり始める点とほぼ一致してくるということである。この弊害については前にも述べているので省略する。

 

AGC(2) 07/20

通常メーカー製SSB受信機のAGCは、だいたい増幅段4段程度にかかっている。前にも述べたようにAGCのダイナミックレンジは約100dB以上必要である。 すべてに同じ素子を用いて、同じ配分をしたとすれば1段あたりでは約25dBとなる。 もしAGCがかかる増幅段を1段減らしたとしても1段あたり33dBだから可能なレベルではある。この違いが動作にどう影響するのだろうか。

話をわかりやすくするために、4段の増幅段のゲインをすべて20dBとし、AGCの配分も同じとする。RF4段では増幅度は80dBとなる。
AGCの掛かり始めは前にも述べた様に約10dBuVEMFである。10dBuVEMF以上の信号ではIF最終段の出力はほぼ一定となる。 信号をどんどん強くしていくとAGC電圧が生じ、各段は同時に同じ量のゲインを抑えていく。 4段のAGCであれば入力信号が90dBuVとなるとAGCでのゲイン抑え込みと増幅度が一致する事になる。 各段の増幅度はちょうど0dBとなる計算である。 AGCがかかっている段すべてのレベルが一致する事になる。 実際には段間でIFフィルターやミキサーなどのロスや、 AGCをかけない増幅段があったりするから動作レベルは一致しないし、このレベルの値は変化することになる。 しかしこれは入力レベルを上げていくとIF最終段の動作より高いレベルで動作する段が出てくるということである。 そしてこれは通常一番最初の段、1st IF AMPの動作レベルが厳しいということである

通常IF最終段の動作レベル、およびミキサー入力にて生じるIMが高くならないようにAGCの検出開始レベルを決める事になる。 このレベルはAGC検波のダイオードが安定に動作するレベルでなければならないので、かなりの高レベルの振幅が必要である。 しかしIF段のゲインとAGC抑圧量が一致した以上のレベルでは前段がこの高い動作レベルをも上回ってしまう。
さらに入力レベルが上がると、前段では飽和が始まり歪むことになる。 これは測定時には定レベルのキャリアであるSSBモードではあまりわからないが、エンベロープを持つAM変調信号では顕著に現れる。 受信機をAMモードで入力レベルを上げていくと、80-100dBuV程度で急に歪みが増える現象が観測される。 エンベロープのある実SSB信号でも歪みとして聞こえる。多くの場合AGCがかかっている最初の段のレベルが高くなり飽和して歪んでいるのである。

通常使われるリバースAGCでは、AGCをかけるほど素子の電流が減り、動作曲線の直線レンジが狭くなる。 AGCをかければかけるほど、取り出せる電力が減り飽和が早くなるのである。 AGCをかけてもあまり電流が減らず、電流傾斜が緩くなるDUAL-GATEの第2ゲートにかけるAGCの方が圧倒的に有利である。 しかしAGCでの抑え込みが多いとやはり不利となる。これは一般に専門書ではAGCによる混変調特性として紹介されている。 言葉に多少引っかかりを覚えるかも知れないが、1%の混変調歪みとあるから本来の混変調(Cross Moduration)特性を表している様である。 これはIFフィルター帯域内でのAGC量による強入力信号特性と見て良い。 これで書かれている動作は、ゲイン低下=出力振幅の低下であるために動作的にはまだ救いがあるのだが、 実際にはAGCが多段にかかっていて、入力レベルの増加に対して1段でのゲイン低下量は少ないために出力振幅は歪んでしまうことになる。 またIF初段はまだIFフィルターの恩恵がないために、AGCをかけたがために起きる2信号特性の劣化は、 近接に強入力信号が存在した場合に非常に不利となる。

またAGCを一段減らして3段とした場合でも、結局はゲインとAGC抑圧量が一致した時点で上記の現象が起きる事は変わらないし、 この場合4段の時に比べて1段あたりのAGC抑圧量が多くなっているために動作的には不利となる。 従ってやはりAGCの段数を増やして強入力時の一段あたりの抑え込み量を減らしてやり、動作に余裕を持たせてやればいいことになる。 IF初段のAGC量を減らすこともある。

AGCの段数を増やすことと反するが、AGCのかかる各段のゲインをできるだけ高く取る事は有効である。
前段でのレベルを下げようと、間に増幅段を設けてゲインを多く取ると、結果としてはAGCがかかっている段のゲインを下げる事になり、 どこかでレベルの逆転現象が早く起きることになるから、フィルターや他の損失補填程度に抑えておくか、 後段になるほど多い目にゲインを取る方が前段の動作に対しては有利となる。
IF終段でのレベル自体を最初から抑えておくことも有効である。 しかし検波回路などがここに直接接続されていると、これに必要な電圧を得るために電力的にはかなり高いレベルが必要であるから、 間にエミッタフォロワなどを設ける事により、IF終段の負荷インピーダンスを上げ、電圧は上がっていても動作電力レベルを下げてやる。 これは同時に検波回路のダイオードの非直線性の負荷により発生する歪に対しても有効である。

話は少し変わるがAGCレンジが限界に達するとIF出力が抑えられなくなる。 この時AGC回路としてはさらに抑えようとしてAGC電圧が急に大きく増加する事になる。 リバースAGCで動作電流の少ない方向(不利な方向)へ余計に追い込むことになる
高い信号レベルでのSメーターの伸びが増加し、強力なSSB変調信号などは変調のピークでメーターの振れ、音のレベルが急激に延びて歪んで聞こえる。 初期の国産SSB機を使用したとき、S9+20dB以上の信号で明らかなAGC不足を感じたことがある。 50dB程度しか実用レンジがなかったことになる。固定ATTを併用して逃げていたが、AGCのレンジは広いに越したことはない。 S9overの目盛りが+60dB程度まで等間隔でしかも正確であった場合は、AGCレンジが90dB以上確保できているということになる。

 

DUAL GATE 08/25

あるDUAL GATE MOS-FETで約20dBのゲインを持つ高周波増幅回路を組み、 その特性を測定してみた。 右図はそのソース抵抗、G1、G2のバイアスを様々に変えてゲインを測定したものの一部である。(バイアスはすべてグランドに対しての電圧)
最終的に採用した太線は、ゲート1に信号入力、ゲート2にてゲイン調整(AGC)を掛けて動作させるために、 AGCライン電圧対ゲインの動作曲線になる。

図でわかるように、G1に約1.8Vを掛けた場合、約2.4V以下でG2電圧に対して直線的にゲインリダクションの特性が得られている。 G2にAGC電圧を掛けた場合、約2.4Vを開始点として約30dB以上の範囲(少し甘めに見れば40dB以上)の間で直線的なリダクションの特性が得られる。 この直線性は非常に重要で、AGCがかかっていれば、そこからのAGC電圧の変化に対するリダクションの特性が一定であるということである。 AGCの抑え込みによる信号波形の過渡応答特性が、どの強さのレベルの信号でも一定になり、 立ち上がり信号のダンピングを一定にして、 最適な定数決定ができるということになる(元信号レベルの動的な変化量にのみ依存する)。
これが直線でない場合は、AGCの各電圧、すなわち信号強度によってAGCループのゲインが変わってしまい、AGC抑圧の過渡応答特性が変わってしまう。 SSBの音声信号やCWの立ち上がりのAGCによる抑え込みが入力信号強度によって変化し、立ち上がりに歪み感を生む元となる。

またこの特性より、このMOS-FETによるAGCを3段掛けると100dB程度の直線的なAGCレンジが得られ、 少し直線からはずれるが120dB程度は充分AGCレンジが取れることが解る。同時にSメーターも100dB程度は充分に直線的な目盛りが期待できる。 実際にはAGCを4段に掛け、下の方の少し曲がっている部分を使わず120dB以上の非常にリニアリティーのいいものが得られた。 この時のAGC電圧はG2電圧2.4Vから約1V(-方向)である。

右は上の特性をデータシート上での動作点を表した物である。
左の図で書き加えている直線はこのFETで固定されているG1電圧(約1.8V)からソース抵抗(470Ω)の傾斜で引いた直線である。 この直線と各VG2s電圧の交点(A,Bなど)が直流動作点である。
データシートのVG2sの電圧はソースに対する電位であるから、VG2s=1Vの交点であるB点は(VG1s=-0.2V)、 ソースのグランドに対する電位は G1-(-0..2)=2Vであり、 G2すなわちAGCラインの電圧はグランドに対して2V+1V=3Vである。
A点はVG1S=約0..25Vであるから、ソース電位は1.8-0.25=1.55V VG2s=0VであるからG2(AGCライン)は1..55V。上図のG2 =1.55Vを見てみると、 約20数dBの抑圧したポイントであることがわかる。
したがって上図の特性はG2 =3Vが下図のB点に相当し、A点方向に向かっての特性である。

右図は順伝達アドミッタンスとVG1s VG2Sの特性である。すなわち上にあればゲインが高い。 B点においても15mS程度であるから負荷インピーダンスを高くすれば充分にゲインを取れるし、A点ではゲインがかなり低くなっていることが解る。 左図で引いた直線は曲線となって現れる。
この特性上で見るべきは、A,Bなどの動作点軌跡が、VG2Sによる山形の曲線のどの部分に位置しているかである。 この曲線のできるだけ広い直線の部分を使うことが低歪みに通じる。
順伝達アドミッタンスは左のドレイン電流特性(入出力特性式)の傾斜、すなわち微分したものである。 この順伝達アドミッタンス特性に直線傾斜があれば、FETの出力に2次の歪みを生じ、曲線になっていればさらに3次以上の高次の歪みを生じるということである。 AGCがかかる広範囲で水平な部分を使うことはできないから、この曲線の山の右側部分のゆるやかな傾斜の直線部分を使うことが望ましくなる。 したがって右図に書き入れた曲線は、VGs2をあまり高くすると大入力時にかえって歪みが増えやすいことが解るし、もう少し右にある方がいいのかも知れない。 (ただしゲインが下がってくる)

さらに注目してもらいたいのはA点である。すなわちG2電圧(AGC)でかなりゲインを落としたポイントでのドレイン電流は、 定常状態から比べてもあまり減ってなく、 電流傾斜すなわちゲインのみが大きく減っていることである。入力信号にかなり大きな振幅が有っても、 出力側のドレイン電流曲線はまだかなりの直線性を持っている。 むしろ広いぐらいである。これはAGCが大きく掛かりゲインを落としても、出力が飽和しにくく大入力に耐えうるということである。
第1ゲートにAGCをかけた場合は左図の直線は、AGC電圧により左に平行移動する事になる。(直線の開始電圧G1=1.8Vから-方向にシフトしていく)。 AGCを深く掛けていくとC点に近づきゲインを下げる。しかしここでC点はドレイン電流の立ち上がりの曲線部分であり、直線に近似できる範囲は相当狭くなる。 ドレイン電流が大きく減っているために歪みやすく、取り出せる出力電力はA B点に比べて大きく落ちる事になる。

AGC(2)で述べた第2ゲートに掛けるAGCが大きく有利なのはこれで理解できると思う。
昔、IF段でよく使われたMOS-FETは、ほとんどがゲート1をグランド電位とし、ゲート2にAGCを掛けて使っていた。
このFETではG1に比較的高い電位を与え、大きなソース抵抗で動作点を決めている。 そのために左図の直線の傾斜が少なくなり、 AGCを深くかけたときの動作ポイントのドレイン電流を減らさず、直線部分を使える様にしている。 また個々のFETのIdssのバラツキに対しても、直流動作ポイントのバラツキが少なくなっているということを付け加えておく。

 

ゲインコントロール 09/10

SSB/AM受信機の高周波ゲインを可変するにはいくつかの方法がある。 安価な受信機では操作が複雑になるのを嫌い省略されることも多いが、うまく使えば非常に効果がある。その方法をいくつか見てみよう。

どこかの段または段間のゲインを調節する。またはプリアンプON/OFFなども含めてゲインを変化させる。バイアスを変えて増幅段のゲインを変える。 バイアス点によっては逆に強入力信号特性が悪化する場合がある。
またはPINダイオードなどを用いて可変アッテネーターを構成するか、簡単な方法としては並列に入れたり、直列に入れたりする。 直列に入れた素子は減衰量を大きくするために電流を減らすと、ここで歪みやすくなるために減衰量はあまり取れない。 PINダイオードはAGCと組み合わされる事も多い。

受信機のフロントエンドにアッテネーターを入れる。 一番簡単に行っている例では、フロントエンドをFETの高インピーダンス入力として、10KΩの可変抵抗を信号ラインに入れて強引に絞っている例があった。 広帯域の受信機などではフロントエンドにバンド毎のフィルターがあるからインピーダンスが乱れ、フィルター特性が変化するためにあまり行われない。 ダイオードSWでの切り替えは強入力での歪み発生の懸念があるから、固定アッテネーターは通常はリレーで切り替える。 アッテネーターはπまたはT型が良く知られているがここでよく使われるのは逆L型の素子が1個少ないものである。 逆L型は受信機入力側に対して不整合となるが、出力側すなわちフロントエンドのバンドフィルターに対しては整合条件が変わらないようにする。 アンテナのインピーダンスにより減衰量が変わるという欠点があるが、リレーの一回路で切り替えられるのが利点である。

これらの方法はSメーターの振れ変化が生じるのであるが、フロントエンドで信号強度を強引に下げることにより感度がさがり、 強入力信号特性が大きく改善される効果が期待できる。

AGCのライン電圧を変化させる方法がある。AGCラインに対して外部から電圧をコントロールできるようにし、 信号で生じたAGC電圧とこのコントロール電圧とで強い物勝ちの回路を構成する。 コントロール電圧に応じてSメーターが振れ出すが、設定された電圧よりさらに強い信号に対しては通常通りAGCラインの電圧は変化するから、 Sメーターは増加する。 いわばコントロール電圧によりAGC抑圧の開始する点をSメーター上で決定できる。 スレシホールド型とも言われるようであるが、この方式の利点は強い信号に対してはSメーター値が変化しないこと、 広いレンジを持つAGCラインを利用するのでコントロールの範囲が広い。
また急激なAGCのアタック特性により歪みが発生するような場合でも、RFGAINで最初からAGC電圧をかかっている状況にしておき、 ダイナミックな信号による抑圧量を抑えてやれば、AGCアタックにより起きる歪みが大きく改善されることである。
妨害波の陰にある弱い信号は、かぶっている妨害波の振幅変化でのAGC発生がゲイン抑圧となる。 RFGAINを深く掛けて新たなAGCの発生を抑えてやると、これによるゲイン変動がなくなり非常に聞きやすく設定できる。 主にIFでのゲインを絞っているために、受信機トータルのNFは前述の方法に比べると大きくは下がらず、 従って弱い信号でもAF GAINを上げてゲインを補ってやればかなり聞くことができる。
RFGAINを下げていくと、以前にトータルゲインで説明した受信機の信号と雑音の比が上がる。 特に多段に渡ってゲインが下がっているから雑音が少なくなって静かになり、落ち着いた受信ができる。
強入力信号特性は向上しないし、AGCがかかったことにより動作点の変化で悪化する場合もある。

 

ノイズブランカ(1) 11/19

ほとんどのアマチュア無線用のSSB受信機には付属回路としてノイズブランカの回路がある。 しかし業務用の無線機にはあまりこれらの回路はついていない。 細かなユーザーの要求やクレームに対処してきたアマチュア機は動作の安定性、信頼度を除いて、 機能や性能などいろんな意味で業務機を上回っているとさえ言える。 これもその中の一つであるだろう。

ノイズブランカの回路は比較的前段のIF段から信号を取り出す。承知の人も多いと思うが、 これはルーフィングフィルターである程度帯域制限をした後、狭帯域フィルターを通る前の段である。 パルス性のノイズは非常に急峻に立ち上がるが、狭帯域フィルタを通過するとその群遅延のためにパルス幅が広くなりなまってしまう。 こんなノイズを検出してゲートをブランクすれば、ブランク幅は広くなるし、波形の立ち上がり下がりがなまって尾を引いているために切り残しを生じる。 そこであまり影響のないFMフィルタ程度のルーフィングフィルタで選択度を取った後で信号を取り出し、ノイズ増幅、ノイズ検波する事になる。 ノイズ増幅とか、ノイズ検波などと言っているが、ただの信号増幅、検波の回路である。ただしこのノイズブランカのAGC回路に工夫がある。

まずノイズ増幅段であるが弱いノイズに対しても効果を取ろうとすれば高ゲインが必要になる。 ダイオード検波するには数百mV程度必要であるから、受信機入力信号から換算して電圧ゲインで100dB以上必要となる。結局これだけで一つの受信機に相当する。 この高ゲインの増幅回路であるが、特にフィルタを持たなければ選択度はその前の受信機自身のルーフィングフィルタでほぼ決定される事になる。 ノイズブランカ回路の増幅回路で高ゲインをとれば検波器に現れる雑音自身は多くなる。 またこの高ゲインの増幅回路自身では選択度はあまり期待できないから、 BFOを始めとする受信機回路中のいろんな発振回路や受信信号自身の影響を受けやすい。 雑音が多かったり、影響を受けると結果として弱いノイズを検出できなくなる。回路の配置や他からの影響に配慮しなければならない。

このAGC回路も広範囲の制御を必要とする。強い信号に対してAGCが検波出力直流電圧を一定に抑えられなければ出力電圧は上昇し、 定常的にスレッショルドレベルを超えるために、ゲートが閉じたまま等の現象になってしまうのである。

ゲート回路で必要なのはブランク時のアイソレーションと動作速度である。受信機自身のAGCは100dB以上の広入力範囲の信号を一定にしている。 例えばピークレベルがS9+20dB(60dBuV)の強力なパルス性のノイズを検出して信号をブランクしたとしよう。 ここでゲート回路のアイソレーションが50dB程度であれば、入力換算約10BuV相当ののノイズ信号が残る事になるが、 これはSメーターの振り始め、AGCが掛かり始めるレベルである。残ったノイズでメーターは振らないが聴感上のノイズは変わらないことになる。 従ってこのレベルでは約70dB以上のブランク時アイソレーションが必要である。 またゲート回路のON/OFF時の直流電圧変化はノイズ発生となるから、ゲート回路は平衡タイプが望ましい。
またこれらのゲート回路中の高周波のパスコンの容量は、ゲートの動作時間に影響を与える事がある。動作が遅いとノイズを切り残してしまう。 ゲート回路を置く段は動作の速さで高い周波数が有利であり、アイソレーション的には低い方が有利であるということである。

 

ノイズブランカ(2) 11/19

ノイズブランカの効果に対する期待は人により様々である。一般に古くからの人達はあまり効果に重きを置かない。 比較的新しい人や、モービル運用をする人の中にはノイズブランカの効果に絶大の期待を持っている人たちがいる。 しかし一般にノイズブランカを持つ無線機は、ON/OFFのスイッチを持っている。 効果があり、これによる副作用が無ければONにしたままでスイッチは必要ないはずである。従ってそこには何らかの副作用が有るのである。

ノイズブランカの増幅段はノイズ検波で得られた直流電圧によりAGCが掛けられている。 通常の信号増幅回路と違うのはこのAGCの動作にある。このAGC電圧の立ち上がりは結構遅く、またそれより長い復帰時定数を持っている。
通常の受信信号でもこのAGCは動作しているが、信号入力時のノイズ検出回路の出力直流電圧はほぼ一定値になっている。 急峻な立ち上がりを持つ信号が入ってきたとき、このAGCの立ち上がりが遅いために検波出力直流電圧はこの一定値をしばらくの間越えることになる。 この一定値より少し高めに設定してあるのがゲート回路動作のスレッショルドレベルである。 やがてAGCが効き始め検波電圧は元の一定値に落ち着くのであるが、 スレッショルド電圧を超えた信号をトリガにしてノイズブランカのゲート回路を閉じて受信信号を一定時間ブランクするのである。 ゲートを閉じるのは短い期間(数十uSからmSec)で1ショットマルチを使ったりする。
この動作からは別にパルス性ノイズでなくても立ち上がりが急峻であれば、CWやSSB信号の立ち上がりでも動作する事になる。
このブランクパルスの時間が非常に短ければ、CWやSSBの受信信号にあまり影響を与えないのであるが、 長くなると立ち上がりにより発生するブランクパルスにより受信音に歪み感が出ることになる。これが副作用の一つである。 そのためブランク時間は短い方が良いのであるが、短くするとパルス幅の狭いノイズにしか効果が無くなる。 ノイズ自身もいろんな波形があり、またフィルタ等の群遅延による切り残しを生じるために効果の少ないものとなる。 逆に幅が広くなると多種のノイズに対して効果が出てくるが、前述の副作用が大きくなる。
またこのAGCの復帰時間は再トリガの時間に関係してくることになり、短いとゲートの動作する回数が多くなるから副作用が目立ってくる。
昔ウッドぺッカー信号(OTHレーダーによる周期的な信号)に効果のあるノイズブランカがあったが、 これはウッドぺッカー信号をブランクするために数mSec以上必要とした。ために受信信号の立ち上がりに与える歪み感が非常に大きかった。

もう一つ、ノイズブランカをONにしていると、すぐ近くに出てきた信号の影響を受け、その近接信号の強弱でノイズの変調を受けることがある。 よくノイズブランカ回路自身を入れたための混変調悪化などと悪者にされているようだが、これは誤動作の一種である。 ごく近隣の周波数の強い信号をノイズ増幅回路が増幅し、ノイズ検出のためのAGCが動作してゲインを抑えてしまい、 本来存在するパルス性のノイズに対して動作しなくなったためである。抑えていたノイズが近隣信号の強度で誤動作して出てくるために、 あたかもノイズ変調された様な現象となる。この場合はOFFにした方が信号が聞きやすくなる。 近接信号を除くための選択度が必要となるのであるが、群遅延の問題もあり十数KHz程度の選択度では取り切れない。 NB OFFが欲しい一つの理由でもある。 初期の頃にはあったノイズブランカ回路を入れたための本当の混変調悪化などというのは、 信号を取り出す部分および通過するゲート回路さえ適切であればほとんどあり得ない。

 

BC帯 01/08 2001

感度の項で短いアンテナではBC帯の電波がうまく受信できない理由を述べた。 にもかかわらずアマチュア無線機ではさらに20dB程度のアッテネータがBC帯で入るようになっている。 前回にも出てきた専門誌に言わせると1mVの入力で初めて40dBのS/Nがとれるのはまともな設計ではないらしい。 ATTをショートする事を勧めている。他にもショートする改造記事をよく見かける。 しかしハイバンドしか使わないようであればそれでも良いと思うが、ローバンドを使用するのであればこの改造はお勧めしない。 見通し距離をエリヤとするため、近距離に数多くの放送局が存在するBC帯の電波がいかに強力であるか検証してみる。

例として1000kHz、100kW、送信アンテナが0dBi(実際はもっとあるはず)のラジオ局の50kmにおける電界強度と受信電力を計算してみた。 このときの電界強度は約50mV/m、これをλ/2のダイポールで受信すると約+20dBm(0.1W)となる。10kmの至近距離では約+34dBm(2.5W)にもなる。 これより短いアマチュア無線用のアンテナを接続すると実効長が下がり、インピーダンスが上がるために整合の問題から受信電力は下がってしまうが、 ローバンドの大きなアンテナを接続するとmVオーダー以上のレベルが容易に出てくることはおわかりであろう。 こんな大入力がいくつも受信機に入ってくるのである。
したがってBC帯以外を受信する場合にはHPFを入れ、BC帯を受信する場合にはATTを入れて、受信機が飽和しないように防いでいるのである。 またWオーダーの入力電力でバンド切り替えダイオードなどが整流を始めて破壊する可能性もある。

ついでであるのでこの条件のλ/2ダイポールにゲルマラジオをつないだ場合、どの程度聞こえるか?  非常にラフな見積もりであることをお断りしておく。
1MHzでの同調容量をおおざっぱにみて80PF程度(最低周波数の2倍の周波数であるから最大容量の約1/4)と 見積もると、 同調時コンデンサのリアクタンスは約2kΩ、コイルのQを100以上、ダイオードの負荷が約1MΩとすれば、 同調インピーダンスは約200kΩとなる。アンテナ側にタップを設け、選択度(Q)を確保しつつ大きく昇圧したとしても、 相当大きなインピーダンスとなり1次側(アンテナ側)に誘起された電圧はさほど落ちないまま昇圧されることになる。 +20dBm(無負荷で4.5Vrms)をさらに昇圧するために、相当の検波電圧が期待できる事になる。

7MHzのダイポールで受信した場合、誘起電圧はおおざっぱに見て 1/7(アンテナ長)に下がる。 アンテナインピー ダンスが高くなるが、高インピーダンスで受けているためにこの分の電圧低下は少ない。 50Ωの固定入力インピーダンスの受信機の場合では、供給側(アンテナインピーダンス)が高くなってしまうと入力電圧が大きく分圧されることになる。 インピーダンスはアンテナの線径や設置条件等で大きく変わるために見積もることは 難しいが、 たとえば1000Ωになるとこの電圧低下分は -26dBとなるから、いかに下がるかがわかるであろう。