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設計TIPS      送信機設計技術について 

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ALC   トータルゲイン   プッシュプルアンプ    広帯域アンプ  2TONE    AM      効率     CW 

高調波   スプリアス    熱暴走   パワー検出  


ALC 04/01

SSB送信機のALCはパワー制限と不要なスプラッタを周辺にまかないようにするために、非常に重要な要素である。
かって真空管の終段パワーアンプの時代には、グリッド電流が流れ出すのを検出して送信機のALCとしていた。
あのころにも整流型ALCと増幅型ALCの論争があったが、グリッド電流が流れ出すというのは送信機の動作で一つの明快なポイントである。 ファイナル送信管自体は少々グリッド電流が流れだしても歪みは急激に増えるわけではないのだが、 その前段のドライブ段での動作が終段に対しては電圧振幅動作であったものが、ここからはグリッド電流が流れ出すために電力が必要となり、 いわば負荷が急変するために+側がクリップし歪みが増えるのである。
ファイナルがトランジスタになり、グリッド電流のような明快な歪み発生ポイントがなくなり、パワー、SWRでの検出に変わった。 設計されたパワー以上に出ようとすると抑えるのである。パワーの制御のためには充分なループゲインを取り、スピードが要求される。 AGCと同じように検出電圧とレンジ、ループゲイン、パワーの傾斜が求められる。

充分な制御とスピードがあればパワーは一定に抑えられていわゆるスプラッタは少なくなる。 しかしこのようにまともに設計すると実はパワーが非常に少なく感じられる。確かにピークで定格パワーは出ているのだがパンチがない、 パワー計が振れないなどと言われる。甚だしいのは10Wの機械でしゃべったときに10Wまでパワー計が振れないと納得しない。 メーカー製の機械に付いているパワー計は少しでも出ているように見せるためにピーク検出であるし、 そのメーカーが出しているパワー計に時定数を持たせているものがある。
設計的にはALCの制御を甘くしてオーバーシュートを許し、 ファイナルでクリップさせるか、前段でリミッタをかけ時定数を早めにとるとメーターの振れが俄然よくなる。 この例を挙げてみよう。

かってファイナルが真空管の時代、一般的に整流型は音声などのエンベロープに反応しある程度グリッド電流を許容した。 またCWのようなキャリアには効かない。そのためにパワー的には大きくなる。 しかし少ないグリッド電流で検出電圧が大きい増幅型ALCはスピード、パワー制御ともに有利ではあった。しかしこれも使い方によって大きく変わる。 増幅型ALCはパワー制御が非常にしっかりしているためにパワーが少ない、これを他に対抗させようとDXスイッチというものを備えた機械があった。
その方法をよく見てみると検出感度を約1/10に落とし、ALCの時定数を短くするものであった。 この方法を行うとどうなるか、通常は10kΩの両端電圧でトランジスタのBE間の電圧として検出しているから、数十uAのグリッド電流で立ち上がる。 これが数百uAとなる。これでパワーが増え、この事自体による歪みも発生するが、ALCのループゲンが大きく下がるためにパワーの制御が甘くなる。 このため終段管が飽和したり、大きなグリッド電流によりドライバ出力での歪みが大きく増加する。いわばファイナルをクリッパとして動作してしまうのである。 さらに時定数が短かくなっているために、ALCが効いてもすぐ元のゲインに戻ってしまう。ファイナルクリッパの回数が非常に多くなるのである。 このためにものすごいスプラッタをまき散らすことになる。

SSB送信機の歪み動作(IMD)はSSBフィルターより前と後ろに分けられる。フィルターより後ろの段で歪むとIMD成分はスプラッタとなる。 フィルターより前だとスプラッタのように帯域の広がりはないが音声が歪んだり濁る。 ALCは受信機のAGCの様に広いダイナミックレンジに比べて、マイクからの音声を相手にするから、レンジは狭くて昔から6dBや10dB程度である。 FET一段でも20-30dB程度の制御は可能である。ファイナル自身はパワーが制限されているから、スピードと制御さえ適正な設計であればあまり問題ではない。 ではなぜALCは10dBと制限されてALCゾーンがあるか?
一般にALCはIF段にかかっている。すなわちALCのかかっているIF段以降の出力はバンドのばらつきを除いてほぼ一定であるが、 それ以前の段はこのALCマージン分の高いレベルでの動作を保証しなければならない。ここで一番動作が厳しいのが平衡変調器(Balanced Modurator)である。 さらにバンドが広帯域であると送信機のトータルゲインはバラつくからこのゲイン変動によりマージンは減ってくる。 ここもしくはマイクアンプ段の適正レベルのマージンが6-10dB程度(ゾーン)内であるということである。

 

トータルゲイン 04/01

SSB送信機はマイク入力、約数mVを出力パワー(10Wなら22.4V 100Wなら70V程度)まで増幅する電圧ゲインがある。 さらにALCのマージンとバンドによるばらつきを加える。
まず考える所は前にも述べたようにBMの動作レベルである。音の濁りや歪みを考えて充分に低いIMになるようにする。 狭帯域のSSBフィルターを信号が通過するとその群遅延のために遅れるから、パワーを抑え込むスピードを要求されるALCはフィルター以後のIF段でかけられる。 このためALCの恩恵のない前段はALCマージンを見込んで設計しなければならない。 このため BMの動作レベルが問題になってくる。 余裕をとり動作レベルを下げてしまうと今度はキャリア漏れとの差が小さくなる。 キャリアリークが少なくて安定な素子は昔から少ない。 かって真空管の7360やいくつかのICもあったが廃品種になることも多い。
BMでの動作レベルを上げるために、マイクアンプにALCをかけることも考えられるが、狭帯域フィルターより前にかけるALCは、 遅い時定数で平均値動作をさせなければならないために瞬間的な動作レベルや、その動作に問題が多くあまり採用されない。 BMの動作レベルを考えた場合に、マイクアンプや、機械の前につけるクリッパやコンプレッサーなどの振幅制限は非常に有効な事である。

あとはやはりミキサーの動作がポイントとなってくる。 送信機では各段の出力でのIMDなどの歪みを考慮するために 受信機とは違い途中からは電力(dBm)で設計することが多い。 最終ミキサー以後はバンドのばらつきや動作電圧を除き、ほぼ一定レベルの動作となる。 やはりIMDに注意し、ファイナルでのIMDが約30dB、その以前の段はそれ以上の動作となるよう設計する。

受信機では入力換算の3rdIPが設計上の問題になるが、送信機では出力の3rdIPを基準に考える。
受信機ではどれだけの強い信号で歪むかを考えるから入力のIPで考えるが、本来歪みは出力側で発生するものである。 これがわかればそこの出力でどれだけのレベルで動作させられるかがわかる。
たとえば出力の3rdIPが+30dBmであり、IMD40dBまでで設計するのであれば

+30dBm - 40dB/2 = +10dBm

となる。 アマチュアの世界ではIMDの成分をピークパワーからのレベルで考えるが、業務機の世界ではツートーンの各レベルより測定する。 すなわち6dBの差が出る。いわゆる定格パワーはIMDが25dB、アマチュア的には31dBの時のパワーである。

このツートーンの周波数であるがアマチュア的には結構いい加減である。しかしたとえばCCIRなどは700/2300Hz、1100/1700Hzと決まっている。 3次IMDがSSB帯域外に出るものと、帯域内のものとによって変わり整数比関係を避ける。 整数比を避けるのはIMDの各次数の成分が同一周波数に重ならないようするためである。
ALCなどの送信機全体の動作を含めて評価するときは1100/1700Hz(3次が500/2300Hzで帯域内)で、 帯域外への不要発射などは700/2300Hz(3次IMDは-900/3900Hz)である。

CWやFMの場合はキャリヤの発生する段から、最終段までとALCマージンを考えてゲインを取る。 この場合単信号だからIMDは気にしないが、CWの場合はSSBと同じくALCによるパワー制御、波形のオーバーシュートなどがある。 ALC量は少ないほど波形の再現性は良い。ALCが深くかかるようだと、せっかくCWの波形が良くなるように傾斜をもって立ち上げた波形の傾斜がきつくなる。 オーバーシュートも出やすくなる。 しかし少ないとバンドによってはゲインが足りなくなり定格パワーが出ないことになる。

 

プッシュプルアンプ 04/02

パワーアンプの負荷インピーダンスの設計公式は、前にも述べたようにVcc^2/(2*Po)である。 これはシングルエンドのアンプである。ではプッシュプルアンプではどうなるか。このあたりは本にあまり書かれていないと思う。
それぞれに半分のパワーと電源電圧から片方の最適インピーダンスが算出されるから 、 プッシュプルでは両方のコレクタ間がそれを足したインピーダンスになるようにし、出力トランスの巻き数比を決めれば良い。
もう一つの考え方として、 前にも述べた最大有効利用はVccの2倍であること、 両方の素子の位相は逆相であることから両コレクタ間の電圧差はVccの4倍になることから 4*Vcc^2/(2*Po)であるともいえる。
あとは出力トランスの中点から電源を供給したりする。

この中点はいわゆる理論的には信号インピーダンスではグランドと同電位であり、パスコンなどで落とす事になる。 電力の小さいうちはこれでも いいし、理論的な回路解説などではそうである。しかし大電力のプッシュプルアンプで効率よくパワーを出そうとすれば、 少々様子が変わってくる。
両方の素子の特性の違いから、電力が大きくなり限界動作に近づくとその差が大きくなり、バランスが崩れて片方の素子に負担がかかってくるようになる。 当然出力は伸び悩み設計した出力が出なくなる。これを緩和するにはどうするか。 小電力であれば互いの違いを吸収できるように、 入力や出力に小抵抗を入れる。ベースやコレクタに直列に抵抗が入っているのを見たことがあるかもしれない。 大電力であればこの抵抗は損失となるからこの方法は使えない。上記で述べたトランスの中点を、 両素子の差で若干自由に振動させる事によりバランスを吸収する。 具体的には中点をパスコンで直接落とさずにLや抵抗を挿入して電源電圧を加える。これでグランド電位に対しては振れる事になるから差が吸収できる。 当然ここから高周波などが漏れてくるからその後の電源側にパスコンを入れる。

また大電力のアンプは負荷抵抗を小さく設計していて、電力的には余裕があるということである。 高周波での負荷インピーダンスは小さく、 このアンプの直流電源からの回路を考えた場合、 このアンプのコレクタとの間のトランスやコイル、配線等の直流インピーダンスが無視できなくなり、高周波負荷と大して差がなくなってくる。
さらにトランジスタなどでは周波数が低いほどゲインは高いから、直流電源との間のインピーダンスを負荷として、 低周波でのゲインが高くなり発振が起きやすくなるのである。 よく言われる寄生振動である。そのためにこれらの大電力高周波アンプの電源側パスコンは、 低周波や、 特定の周波数に対して負荷インピーダンスが高くならないようにする必要がある。 本来のパスコンと並列に電解コンデンサを入れたり、 広い帯域でインピーダンス下げるために違う容量のコンデンサをいくつも入れたりするのである。

 

広帯域アンプ 04/06

ローカル局が送信する。このローカルは非常に強くてSメーターが9+60dBを軽く振り切れる。 受信機入力はSメーターを信用すれば100mV(100dBuV)以上である。 ところがローカル局が出るとバンド中にザーというノイズが出る。 人はPLLシンセサイザーによるノイズだと言う。本当にそうであろうか?

送信機の最終ミキサーを例えば一般的なIPが+10dBmのDBMで設計したとしよう。 このDBMでのIMDが送信機全体の問題にならないように設計したとすれば、例えばIMDを終段より充分低い40dBに取れば、 ここでの動作レベルは+10dBm - 40dB/2=-10dBmの入力レベルとなる。 これは出力側のレベルで-16dBm程度である。 100Wの送信機であれば、あと+50dBm(100W)まで66dBの増幅度を必要とする。
バンドのばらつき、電力が上がってきた時のゲイン低下等を考えると、約70dBである。 このDBMを入力とする以後の増幅段全体のNFを考えた場合、例えば受信機などとほぼ同じ考え方でNFを10dBとしてみよう。 この時、等価内部雑音は3kHz帯域で約-130dBm程度である。この内部雑音に65dB(ミキサーロス-6dB)程度のアンプが付いているので、 アンテナ端に現れ送信されるのは約-65dBmとなる。
これは-115dBc(キャリアに対する比)のレベルである。ということはS9+60dB(100dBu)の信号のローカル局が出ると -15dBuV(-128dBm)の雑音が出てくるということである。 メーターこそ振れないがNF10dBの受信機で聞くと雑音レベルが充分聞こえるということである。 送信最終段の後ろには高調波を抑えるためのLPFが入っているから、送信しているバンドより上の周波数帯ではこのLPFで雑音は抑えられる。 しかし送信する周波数より低い周波数帯ではLPFの恩恵は全くない。 昔の真空管式の機械は出力インピーダンスが高く、広帯域アンプの設計ができなかったため、各ドライブ段をチェーンなどで連動して何段も同調を取っていたから、 このノイズは割合狭い範囲で抑えられた。 しかしトランジスタの広帯域アンプになってから、非常に広い範囲に雑音がバラまかれるようになったのである。 さらに受信機の局発レベルの所でも説明したが、局発注入側からも受信機と同様の動作もあり、 局発アンプからの雑音も無視できないのである。もちろんPLLの位相雑音もある。

先の見積もりはかなり適正な動作レベルで、NFも結構いいと仮定しての場合である。 ということはこれより広帯域アンプのゲインが高くなったり、NFが上がるともっとこの雑音レベルが上がるということである。
受信機とは違い、前段にアンプを付けてトータルのNFとしては上がったとしても、総合ゲインが上がっているので出てくる雑音はもっと多くなる。
実際に測定して見たことがあるが、この広帯域雑音は100W機で-90dBm/Hzから、-95dBm/Hz程度であった。(1Hzあたりの電力)  これは3KHz帯域に換算すると3000倍(+35dB)であるから-55dBmから-60dBmとなり、上記の計算とほぼ一致してくるのである。

送信機の雑音を帯域別に分けてみると、上記の広帯域雑音、次がIFの帯域、さらにSSBフィルター内の雑音という様に順番に段階に分かれてくる。 これにPLLの位相雑音がキャリアの近傍に絡んでくるのである。 各帯域の雑音はそれぞれの帯域を制限するフィルターより後のNFと、 ゲインである程度計算する事ができる。 パワーが大きくなると結構ぎりぎりのレベルで動作しているので、送信機の各段のレベル配分、ゲインの管理がいかに重要であるかよくわかる事と思う。

 

2TONE 04/29

送信機の評価にはよく低周波の2信号が用いられる。一般にSSB送信機の評価はほとんどこの2TONEを用いて行われる。 (残念ながら日本は大変な後進国である。1信号などでの測定が多い。それに加えて海上用無線機などはいまだに75Ω負荷で行われている)
例えばアマチュア的には無信号、1信号で評価しているキャリア漏れやパワーなどの評価も2TONEで変調した信号で行なわれている。。
無変調時に比べ2TONEで変調されると、BMの動作レベルが変わったり、 また2TONE変調の波形のクリップなどにより BMに入力される信号のDC成分が振られたりするから、キャリア漏れが増えたりする。 また1信号と2信号ではALC動作や電源状態が変わるからパワーも変化する。 もっと先進的な所ではALC動作の評価には4TONE法を用いている。 4TONE法によるダイナミックなALC動作は非常に厳しいものとなる。

2TONEの片方はピークパワーの1/4(-6dB)  2つを合わせて1/2(-3dB)である。 パワーメーターでは1/2になり、スペアナではそれぞれの成分は-6dBである。 IMDは各2信号からの差で測定する方法と、PEPから測定する場合(アマチュア)とがある。 当然アマチュアの方が良い値の表示となる。 定格パワーとは3rdIMDが-25dB(-31dB)以下であるから、 実際にはアマチュア機は満たしていることは少ないと思われる。

アマチュア的にはこの2TONEは非常にいい加減である。しかし本来は送信機のどの部分を評価するかによって、 この2TONEは大きく分けて2種類の組み合わせを用いることは前にも述べた。 すなわちマイクアンプやBMなどを含め送信機全体を評価する場合は、3rdIMDがSSBフィルター帯域内にはいるような近い組み合わせを用い、 送信電波の広がりなど不要輻射を評価するような場合は広い2周波数間隔とする。 国際電気通信連合のCCIR(有線ではCCITTに相当)ではこれを1100/1700Hz、700/2300Hzとして推奨している。
帯域内でのIMDを観測した場合、それぞれの変調周波数の高調波、IMD、高調波同士のIMD、キャリア漏れなどが見られ、 また本来のファイナル部分で生じたIMDが一体となって観測される。 マイクアンプやBM適正な設計でない送信機ではALCゾーン内の変調でも非常に汚いものとなる。すなわち変調音の濁り、品位がわかるのである。
この場合SSBフィルター帯域外は高次のIMDとなるから、電波の広がりの評価には不適である。

帯域外を評価する2TONEでは、低次(3次以上)のIMDがSSB帯域外となり電波の広がりとして評価できるようにする。 上記に比べて観測されるものは少なく、送信機のスプラッタなどの不要成分の評価に用いる

ここで生じるIMDは上下非対称であったり、3次、5次IMDが高次になるほど順次に減少するはずが、逆転したり、増減したりする場合がある。 帯域外を評価する2TONEでは、IMDは通常ファイナルで生じる(動作が一番厳しい)が、 実際にはそれ以外にも動作的に厳しい部分(ドライブ、ミキサー等)があり、 それらで生じるIMDとが合成され、 位相的に増減が生じる場合があるからである。
従ってこれらは動作点、パワーの変化によって様々に変化する。 特にプッシュプルアンプなどでは入出力のパワーのレベル変化によって、そのバランスが大きく変化するからIMDの変化も直線的ではないため多様になる。
また一般にトランジスタのファイナルアンプは、高次のIMDが大きくスプラッタなどは若干不利となる。

 

AM 05/21

たいていのトランシーバーにはAMモードがついている。しかしこのAMモードは結構やっかいな存在である。
AM送信について考えてみる。

昔のAM送信機はほとんどの機械がファイナルで変調をかけていた。プレート変調やスクリーングリッド同時変調などである。 これらは変調器に送信パワーと同等の大電力を必要とし、変調トランスを必要とした。もっと小電力にするためにはコントロールグリッド変調などがあった。 送信時のピーク電力はキャリア電力の4倍であり、シングルトーンの100%変調の平均電力は150%である。 当時のAM送信機は今のようにALCでパワー制御するということはあまりなく、現代の送信機は低電力変調が主流で、 パワーの制御という意味で違った難しさを持っている。

現代のHF送信機はSSB送信機である。このSSBを主にした送信機にAMモードを追加する場合はどうなるか。
まず元のSSBに対してキャリアだけ漏らしてやるとH3E(A3H)モードができあがる。 いまはAMはほとんど絶滅したが、 業務用の送信機のほとんどがこのモードであり、別名AME(AM Equivalent)とも呼ばれ、AM受信機で復調できる。
本格的なAMに比べ帯域幅は半分であり、キャリアはピーク電力に対して-6dB、シングルトーン100%変調時はちょうどSSBの2TONE変調と同じ状態になる。 ALCの動作はSSBと同じでよく、動作的には一番シンプルである。 しかしこのモードの変調の難しさ(深くできない)はご存じの通りである。キャリアが少ないともがつき、多過ぎると変調が浅くなる。 送信機の段間でキャリアを漏らして追加したような構成では、キャリア電力をバンド間のゲイン変動や、温度の変動に対して一定するのは非常に難しい。 このためにはやはりキャリア電力が一定になるようなフィードバック系の制御がほしいところである。

現代のアマチュア無線機のほとんどは本格的な両側波帯のAMモードである。 終段で変調をかけることはほとんど行われず、低電力変調である。 IFの帯域はSSBフィルター以外に、両側波帯を通すフィルターが必要となる。
キャリアはどこで添加するか。先のH3E(A3H)モードのようにどこかの段で漏らすか、またはBMのバランスを崩してキャリア漏れの状態を起こすかである。
ここで問題になってくるのはALCである。変調のピークパワーに対してのALCがキャリアにもかかってしまった場合、 このキャリアは影響を受けて減少するから、キャリアで振れていたパワー計の振れが下がることになる。
そのためにはキャリアはALCと無関係である方がよい。したがってできるだけ後の段で漏らすことになる。 この場合キャリアはピークパワーの25%に調整するとちょうど100%変調がかかるレベルとなる。
しかしこのキャリアパワーは前述のように温度変動、バンドのゲイン変化にもろに影響を受ける。 そのためキャリア調整がついてるような機械ではいいが、モービル機や簡単操作のためには不適当である。

キャリアパワーを一定にするためになんらかの方法で制御する事が必要となる。このためにALCの様なフィードバックの制御でキャリアパワーを制御する。 しかし変調がかかるとパワーは増加するから、通常の尖頭値型のALCでは不適で、キャリアにかからないように、 変調に対しては応答しないように平均値型のALCをかける必要がある。 メーカー製の機械の大部分はこれであり、AMモードでは時定数を切り替えることになる。

法的にはSSBもAMも同じ電力であっても、それぞれのピークパワーは違う。
AMはキャリア電力の4倍まで出すことが可能である。前述の様に25%のキャリア電力として、SSBと同じピークパワーで抑えてしまうのは得策ではない。 もともとSSB時でもバンドやばらつきその他で、設計パワー的にはある程度余裕があるから、キャリア電力を定格パワーの40%程度とし、 ピークは4倍の160%となるが、この程度までは少し伸びがなくても出力は可能という考え方である。
これも前述のアマチュア専門誌であるが、「40%にするのは、変調は浅くなってもキャリアの多い方が・・・ 考え方」と書かれてあったが、 40%のキャリア電力にしても、ALCを平均値型にしたために、パワーさえちゃんと伸びていればきちんと100%(以上)の変調がかかるのである。 100%以上の変調がかかってもがつかないようにするためには、変調レベルに制限をかければ良いことになる。 そのためにプロセッサーなどは有効である。

しかしこの平均値型ALCを採用しても、実は変調をかけると平均パワーは増加しているから、 例えばしゃべった後に、 一瞬パワー計が下がるというような現象が起きるのである。 しゃべっている間もALCがキャリア+変調の平均電力が一定になるように制御していて、パワーメーターは若干前後しているが、 変調がなくなるとキャリアだけになってしまいパワーが下がり、時定数で戻っているのである。

余談であるがA3HモードをH3Eと書いた。A1, A3, A3J、A3H、A3A, F3などの旧モード表記法は、もはやアマチュア無線だけと思われる。 どうして世界の標準にしないのだろうか? 新モード表記は、それぞれA1A, A3E, J3E, H3E, R3E, F3Eである。

 

効率 05/26

一般の100W,HFモービル機は12-14Vで動作する。これに必要な電源電流は約20Aである。 10W機であれば約3A強(最近は機能が多くなり越えるようであるが)で動作する。 よく100W機のパワーを落として、QRPの5Wや10Wで使いたいという声を聴く。 しかしこの使い方は非常に効率が悪い。 パワーを落とした割に消費電流はあまり減らない。この効率について考えてみる。

この例での100W機の消費電流の大半を占めている終段PA回路の設計について考えてみる。 たいていB級またはAB級のプッシュプル回路であるから、片方づつを考えてみる。
負荷インピーダンスの設計はこれまでにも述べたように(Vc^2)/(2xPo)であるから、電圧を13V、パワーを片方50Wとすると約1.6Ωである。 実際にはトランスの巻き数比は、プッシュプルで50Ωに対して1:4にして、50/4^2=3Ω強。 すなわち片方当たり約1.5Ωで設計することとなる。
この時の高周波電流はオームの法則からI=(P/R)^0.5で約6Aとなる。すなわちプッシュプル両方で約12A。 これにアイドル電流や、損失を加えると効率が良い場合でもだいたい13-14A程度となる。 実際に私が作ったのものと比べてみると、一番効率が良かったところで約14Aであったから、ほぼ計算通りである。
同じように前段ドライブの電流を計算して約2A、その他の動作電流約1A程度を加えるとだいたい、効率が良くても17A程度であろう。 効率が悪いところでは20Aに近くなると思う。

さてこの回路で10Wにパワーを落としたときの動作はどうなるか?  パワーが変わっても負荷インピーダンスは片方当たり1.5Ωのままである。 ということは10W出力時にここに流れる高周波電流を計算すると約1.8Aになる。 両方で約3.5A、前段とその他の動作電流の1Aを加えると、約5Aである。 実際にはもっと効率が悪いから5-8A程度ではないだろうか。 10Wの専用機では約3A程度で収まるはずが、2から3倍の消費電流となって、非常に効率が悪いのがこれでわかると思う。
実際の10W機での計算は、巻き数比1:2、片方当たり6Ω強、高周波電流は両方で約1.8A。 アイドリングとその他1A強で、トータル約3Aとなる。
こういった非効率を改善するためには結局の所、使用するパワーに適した終段回路を使う以外にない。 すなわちリニアアンプなどを備えて、パワーに応じてON/OFFするような使い方をするしかないのである。

効率が悪いのはわかった。この効率の悪い回路で、他に問題はでないのだろうか。
パワーを落とすのは出力パワーの検出電圧のスレッショルドを下げて行われる。 しかしこのままパワーだけ下げて制御すると、ゲインはそのままだから、ALCのかかる量が増加し、 音声やCWでのALCコンプレッション量が多くなる。またパワーを下げた分だけS/N、キャリア抑圧量が下がる。
またCWなどではキークリックなどの対策のために、波形の立ち上がり、下がりの時間を意図的にとっているが、 パワーを制限することにより、すぐに制限パワーに達してしまい、結果として急激に立ち上がる波形となる。 また動作時のALC量が10dB多くなってオーバードライブ状態となり、波形のオーバーシュートや戻りの振動などが多くなってしまう。
そのためにパワーを絞ると同時に、送信機全体のゲインを連動して落とさなければならない。 すなわちパワーを10dB落としたら、ゲインも10dB落とさなければならないのである。
さらに終段動作での信号振幅が少なくなったためのクロスオーバー歪みが多くなる。
パワー検出電圧が低くなる。これらはダイオード検波であるから、順方向電圧が無視できなくなり、 パワーの制御がばらついて不安定になったり、 温度の変動によるパワー変動の原因となる。

設計されたパワーに対して大きく下げて使う事は、よく言われる「終段を軽く動作させて歪みが少なく動作させる」 などと言うようなものとは全く次元の違う使い方であり、 非常に非効率、不利な使い方なのである。

 

CW 07/01

CWモードは一番シンプルな電波形式である。しかしこれも品位の良い電波を出そうとすれば、結構いろんな要素を考えなければならない。 またシンプルなだけに、あらが目立つ物である。

昔のCWはファイナルのカソードを直接キーイングしたりしていたが、今考えるととんでもない方法であったように思う。 キーにかかる電圧が非常に高くなったり、大電流である。危険でもあるし、大電流により接点がすぐ痛む。 また大電流のON/OFFは火花を出し、キーからの火花送信機にもなってしまう。 現在の小電流によるキーイングでも、 特に対策しなければすぐ横の受信機に入ってしまうこともあるから、 今から考えればキークリックなども相当出ていたのではないかと思う。

SSB送信機においてCWを出す方法はいくつかある。 先のAMの様にキャリアを比較的後段から漏らしてやるか、 SSBのバラモジで取っていたバランスを崩してやるかである。 どちらもCW時は音声による変調を切る必要がある。 しかしこれらによる方法だけでは、キーイングOFF時のアイソレーションは充分ではない。 OFF時のアイソレーションはスペースウエーブになり、聞こえてくることになる。 弱い信号ではこの問題はあまり起こらないが、充分にAGC抑圧を受ける強信号では、キーイングの合間のAGCが復帰した時にはっきり聞こえてくる。
このためアイソレーションを稼ぐために、それ以外にキーOFF時のミュートする方法が必要となってくる。 またCWの波形はキーイングに対して、遅れて傾斜を持って立ち上がり、 OFFになっても遅れて傾斜を持って下がるからこの波形を完全にカバーするようなミュートである必要がある。 さらにキーイング品位を目指そうとすれば限界の90-100dB必要であるから、 バラモジによる抑圧は40 - 60dB程度であり、ここからさらに相当の抑圧が必要である。 いろいろな方法があるが、別の段でのスイッチの追加や、発振回路を完全にOFF(立ち上がりのドリフトの心配がある)するとか、 複雑な構成であれば局発生成課程における分周をストップするなどの方法も使える。

CWではセミブレークインやフルブレークインでキーイングに対して自動的に送信になるようにする。 しかしここで問題になるのは受信から送信、あるいは送信から受信への変化時の、受信機/送信機の立ち上がりである。 この切り替え時間が早くなってくると、いままであまり考えられてなかった問題が発生する。いくつか挙げてみよう

送受切り替えリレーなどの動作速度により、あまり早く電波が立ち上がってもリレーが切り替わる間 (外部にリニアアンプなどを接続した場合は、 その切り替わり速度が問題になる。) 送信機にとっては無負荷となり、この間に保護回路が働き、送信時の頭が出なくなってしまう。 またキーイングに対して遅れを大きく取ると、速い速度でのフルブレークインができなくなる。 またきれいなCW波形のためには立ち上がり下がりともに3−数mSecの傾斜が必要であるから、ますます波形がやせたり、フルブレークインが難しくなる。
受信電圧などの立ち上がりを急峻にすると、受信の頭で大きなクリックを発生したりする。 結果、送信の立ち上がりは数msecから10数msec 受信の立ち上がりは10msec-20msec程度は必要になってくる。 もちろんPLLや他の回路の切り替え動作も速くしておいての話である。
トランシーバーにおいては、送受信のフィルターが共用である。ここも当然送受で切り替える。 送信時、このフィルターにはその送信信号の強いエネルギーが通過している。しかしこのフィルターの群遅延によりこのエネルギーは少し遅れて通過している。 ここで受信に切り替わったときには、まだ送信信号のエネルギーは残っており 受信に変わると、このフィルター以後のIFアンプがこのエネルギーを受信してしまう。 すなわち受信の頭におけるクリックなどのノイズになってしまうのである。

CWではパワーを制限するALCはAMのような変調によるパワー変化を考える必要はないが、 キーイングによるキャリアの立ち上がりで、SSBと同様にALCが立ち上がる。 (パワー制限のない小電力ではALCはないが、ゲイン変動などによるパワー変化の原因となる)
AGCと同じように、このフィードバックによるパワーの制御はCWの波形に大きな影響を及ぼす。 立ち上がりを速くし、オーバーシュートやその後の振幅変動を減らす。 そのためには過度のALC量にならないように適正なキャリア量とする必要がある。 しかしALCの制御により出力パワーを落とした場合、送信機全体のゲインが一定だとオーバードライブとなりオーバーシュートの量が大きくなる。 またCW波形の立ち上がり傾斜は同じでも、早い段階で最大レベルに達するから、結果としてCW波形の立ち上がりが急峻になってしまう。 このためにはパワーを絞ると同時に、送信機全体のゲインも同じように下げなければならない。 こうすればパワーを変えてもALC量は一定になり、立ち上がり下がりの波形も同じになる。 またあまり大きくALCがかかる様であると、送信最初の立ち上がり(ALCの最初の立ち上がり)と、 連続して送出しているとき (ALCがある程度かかっていて、時定数で戻ってくる)とでは送信機のゲインが変化しているから、 いわゆる一発目の波形が他とは大きく違う原因となる。

キャリアの断続のみで一見簡単に見えるCWにおいても、品位を良くするためにはレベルの管理や、細かな配慮は必要なのである

 

高調波 08/13

送信機にスプリアスはつきものである。全くスプリアスの輻射がない送信機は存在しない。 送信機のスプリアスにはいろんなもの有るが、今回は目的周波数の整数倍に現れる高調波について書く。

これを落とすには送信機の出力にLPFを入れる。HF機のようにパワーが大きい場合はコイルやCを大型にする必要があるし、 バンド切り替えなどにリレーを使うことも多く、このLPFを受信と共用する事も多い。 しかし一般型のリレーを使用する場合で注意しなければならないことは、当然接点の容量と接点不良である。
最近のリレーはほとんどが金メッキ接点になり、密封型になってきたために問題としては減ってきたが、 接点定格の大きい電力リレーで密封型でないものは接点の酸化に注意である。 接点が酸化した場合、送信時の電力通過には特に問題がなくても、 受信時の微少電流域でのON抵抗が上がり、受信感度が極端に下がってくる場合がある。
またリレー構造により接点−コイル間に容量を持つ物がある。これはフィルター特性に影響を与えるし、耐圧上にも問題が出る。 耐サージ電圧何々KVと唄ってあるようなものは、接点−コイル間が離れているのでまず大丈夫である。

LPFはT型、π型があるが一般的にはLが少なくてコスト的にも有利なπ型が用いられる。 段数はスプリアスの抑圧量によるが、50dB程度以上必要で有れば最低5次以上となる。 しかし次数が少ないほど損失には有利である。通過帯域内はできるだけ損失と帯域内SWRを下げる必要がある。 以前から何度も述べてるように、ここで切れの悪いバターワースを用いると、 2倍高調波を落とすためには通過周波数の特性に影響が大きくなるし、 高次のフィルターを必要とする。 損失が少なくなるように帯域内リップルを少なく設計した、チョビシェフやエリピティックフィルターを用いる。 エリピティックは高次高調波で必要な保証減衰量が得られるように設計する。 ここでの損失は、例えば1dBあればパワーロスは約20%に及ぶので影響が非常に大きい。パワーが大きい場合は当然損失分が発熱することになる。

広帯域パワーアンプでの注意点。高いバンドではアンプ自身の周波数特性が高調波に対して落ちているために、比較的落としやすいのであるが、 低いバンドでは高次の高調波はまだアンプの通過周波数帯内にあるために、高調波が比較的大きいことである。 またフィルター自身が実装上の問題、および素子(主にコイル)の問題のために、高周波数において設計した減衰量が得られないことである。 例えばHF広帯域パワーアンプでは1.9MHzや3.5MHzの高次(7次など以上)では思ったより高調波が出てくることがある。

V/UHFの機器や一部のHF機に見られる送受切り替えにダイオードを用いる場合は、ここで高調波が発生する場合がある。 しかしこの後ろにLPFが設けられている場合はあまり大きな問題はでない。しかし整流動作を始めるとパワー損失で高調波どころではなくなる。

パワー検出回路はほとんどがダイオード検波であるから、非直線性の歪みを生じて高調波が発生する。 このために検波回路への結合はできるだけ少なくすることと、効率良い検出である必要がある。 小電力の場合は検出感度を上げるために検出回路への結合が大きくなるから、特に注意が必要である。 この検出回路はフィルターの前、パワーアンプ側に置くと問題ないのであるが、フィルターの帯域特性の影響を受けて、 パワー制御の平坦性がうまくいかなかったり、アンテナ端の実SWRとは異なってしまうためにアンテナに近い所に置く。

測定上の注意。スペアナなどで高調波を観測するが、スペアナも受信機である。入力電力が多いと当然歪んで自身で高調波を出す。 意外と知られてないが特に低い周波数帯では歪みやすく、そのために実際に出している高調波より多く観測される場合がある。 スペアナの定格などで歪みは低い周波数帯を範囲外としている事がある。
このためにスペアナに入力される電力には充分注意する。 外付けや内蔵のATTで変化させてみて、ATTの量を10dB程度変化させても、 観測されるスプリアスの抑圧量に変化がないことを確認する。 ATTの量が多いと、スペアナのノイズフロアが高くなるから測定が難しくなる。 この場合はRBWをできるだけ下げ、またスイープ範囲を狭めて目的周波数や高調波近辺だけを観測し、RBWとスイープタイムが適切になるようにする必要が出てくる。
ダミーとしてパワー計を用いる場合、パワー計の検出回路が高調波を出す場合がある。これも要注意である。
またATTの周波数特性が悪くて、基本波と高調波で減衰量が違っている場合もある。

 

スプリアス 08/15

高調波以外に出てくるスプリアスについて。但し増幅段などの発振で生じるものは除く。
昔風のAM送信機やFM専用機などでは目的周波数を直に発振、または逓倍して作るから、逓倍前の整数分の1や、それらの高調波だけを除去すれば良かった。 SSB送信機においては変調後に逓倍はできないから、ヘテロダインで目的周波数を得ることになる。 最近は局発自身がPLLを用いて周波数構成が非常に複雑になっているから、それらの合成によるスプリアスやその他の除去を充分考えなければならない。

ヘテロダインで周波数を変換する場合、当然考えなければならないのは局発漏洩とイメージ成分である。 IFが低いと、局発周波数とイメージや目的周波数が近くなり、専用にXtalなどの狭帯域フィルターを入れないと除去できない。 またミキサーの動作が厳しくなってくると、目的周波数を得る2次成分以外に、IFや局発の整数倍(整数次の歪み)、 IFの整数倍と局発の整数倍の組み合わせ(2つの整数の和)で生じる3次以上の成分が増加してくる。 これらの組み合わせは和、差それぞれに存在するから(例えば3倍と、2倍の差 5次)、 最終ミキサのように目的周波数に広帯域に変換する場合には除去が難しくなる。
例えばIFが5MHz 局発 9MHzであれば目的周波数は14MHzであるが、局発の2倍-IFは13MHz  (2+1=3次) IFの4倍(20MHz)と局発の差(4+1=5次)は11MHzである。 そのほかにも  局発x2 - IFX2 =8MHz (2+2=4次)などさまざまな成分が出てくることになる

これらからミキサー動作でスプリアス的に有利なのは、高い周波数同士(IFと局発)をミキサーして低い周波数を得る動作である。 この場合低次の歪み成分はほとんどLPFで除去できることになる。例えば70MHzのIFと77MHzの局発から出てくるのは7MHz以外にも 70(IF), 77(局発), 147(イメージ)と、上記で述べた歪み成分の内で、問題になる低次のものはほとんど高周波数になるために除去しやすくなる。 受信機と同じくIF周波数や局発は高い方が有利である。
しかし目的周波数が高くなってくると結構無視できなくなってくる。 例えばIFが70MHz、局発91MHzで目的周波数21MHzを作る場合、5次の成分として28MHz(IFx3 - 局発x2)、7次として7MHz(IFx4 − 局発x3)などが出てくるため、 バンド専用のBPFがあれば良いが、広帯域全体でLPFなどで済ますと問題になってくることがある。 このために最終ミキサの動作レベルを充分管理して、歪みの少ない低レベルで動作させなければならないことになる。 ミキサーを低レベルで動作させるということは、この後の段のゲインを上げることである。 これは前にも述べた広帯域雑音の点で不利となってくる。 このために最終ミキサは高出力IP、低NFで、 この後の段のゲインのバラツキを極力抑えなければならない。

送信機の実際の動作においては、これらの周波数関係以外に気をつけなければならないことがある。 目的周波数で大きなパワーを出しているために、送信機内部にこのパワーが回り込むためのスプリアスである。
広帯域のパワー段を持った送信機では、目的送信周波数が関係した様々な成分が観測される。
例えばIFが70MHzで局発99MHz 目的周波数29MHzであれば、この送信周波数の成分がIFや局発に回り込み、 増幅器やミキサーの非直線歪みによりスプリアスが生成される。 29MHzが入るとこの2倍の58MHzとIF 70MHzで12MHz、3倍の87MHzとIF 70MHzで17MHz、3倍の87MHzと局発99MHzで12MHzといった具合であり、 その他これらの組み合わせや、PLLの複雑な周波数関係に回り込むと様々な成分が出てくることになる。 これらのスプリアスは回り込む場所も、レベルも様々で複合されることが多いから不安定で、個体差や動作レベルその他ちょっとした事で様々に変化する。 対策して落ちたと思っても一台だけに有効で、実際には根本的な効果のある対策でないなどといった現象が起きる。

また直接に飛び込むのでなくても、パスコンで述べた基本的なデカップリングの処理をきちんとされてない場合は 回り込みの問題が起きる。 電源ラインとデカップリングのないその複数のパスコン、グランドを通して、低インピーダンスのループを形成する。 このループに高周波パワーなどによりグランドに生じた電位差により電流が流れ、回路への回り込みが生じる。 ユニット間をつなぐ電源や信号線などに、デカップリングの処理をしないで両端をパスコンなどでべたべた落としてループを作ってしまうと、 他の信号やノイズ源によるグランド電位差が両方のパスコンを通じて電流ループを形成する。 線の束などの中で一つでもこういうのがあると、他の多くの線に結合されて影響する。 電源などの線の束を動かしただけで、 スプリアスの抑圧量が大きく変化するなどというのはいい例である。 規模の大きな機器になると、これらのループが何重にも錯綜し、増加したり打ち消したりして不安定になり、手に負えなくなることがある。
これは受信機や他の回路においても、 例えば局発によるスプリアス受信やロジック回路のノイズの妨害などの様々な影響が生じる事になる。 このデカップリングの処理や、各回路の信号電流ループがきちんと設計されいるかどうかが、最終的な品位や性能、再現性に大きく関わってくる。 アマチュア的な設計との大きな差になってくるのである。

 

熱暴走 09/10

送信パワーアンプ段はFMなどでは入出力の直線性は問わないから、コイルなどでベースを直流的にグランドと等価にし、0バイアスのC級増幅となる。 SSBや変調のかかったAMに対しては直線性が問われるから、数百mW程度まではA級増幅で、これより多くなると効率の面からB級方向に移行する。 この動作でクロスオーバーの歪みを少なくするために若干のアイドリング電流を流しAB級となる。

トランジスタのバイアスを掛ける方法はいくつか有ることはご存知だと思う。
この場合大きなパワーを出すために、コレクタはLやトランス負荷で電源電圧が直接かかっていて、エミッタには抵抗は入れない。 (内部にエミッタ安定化抵抗が内蔵されている場合もあるが、非常に小抵抗である) このためにバイアスに直流負帰還は期待できない。
抵抗負荷では温度変動の大きかったベースの固定バイアス方式が安定度が良い。 直接電源から1本のベース抵抗でベース電流を決め、そのhfe倍のコレクタ電流を流す方法である。 高い電圧から0.6V程度の接合電圧と必要なベース電流に抵抗値で落としているために、温度により多少の接合電圧の変化があってもベース電流はさして変わらず、 hfeさえ温度で変化しなければアイドリングのコレクタ電流はほとんど変わらない。 しかし別の理由からベースには並列に低抵抗を入れる必要がある。
大容量のトランジスタはそれなりにC-B間、C-E間の漏れ電流も多い。 ベース抵抗が高いとこのC-B間の漏れ電流がベース電圧を上昇させ、それによってコレクタ電流が流れてしまうために、 C-E/C-B間の耐圧が低くなってしまうため数百Ω以下である必要がある。 またベースに入力される高周波電力が大きくなってくると、正と負の半サイクルでは ベースに流入する電力、電流が違うために、入力高周波が上下非対称波形となり、 このためにDCバイアス点が変動して歪みを生じる元となる。 さらに入力電力が大きくなるとベースに負のバイアスを生じ、E-B間がブレークダウンを起こしてhfeや電力が低下する。大きくなれば破壊に至る。 電力にもよるが、このために10Ωから数十Ωの抵抗を入れて電流を流しておいてやる必要がある。 ベース側の入力インピーダンスはパワーに応じて元々非常に低い値であるから、この程度でもあまり大きく影響は受けない。 この抵抗は飽和パワー時のオーバードライブ時に結構大きな電力がかかるから、大きな抵抗が必要となる。 トランジスタが破壊したりするときにベース側の抵抗や、フィードバック抵抗などが燃えるのは、入力電力によるパワーがこれらの抵抗にすべてかかるためである。
しかし直流バイアスの面からはこのベース抵抗があるために、電源からの抵抗とベース抵抗との分圧のバイアスとなる。
ベースに並列に入る抵抗値が低いからこの両者の抵抗値は低く、流れる電流は非常に多くなり、その一部分のみがベース電流となる。 例えばアイドルを200mA流すには、hfeが50であればベース電流は4mAである。 ベースの電圧を0.6Vとするとベース抵抗(10Ω)には60mA流れていることになる。 これが温度上昇によりベース電圧が0.5Vに下がるとベース抵抗には50mAの電流となり、減った分(60-50=10mA)はほとんどベース電流に流れてしまう。 このために500mAのコレクタ電流が増加、→電流の増加により発熱、→ベース電圧の降下、 →ベース電流の増加→コレクタ電流の増加→発熱・・・・・・ となって熱暴走が起きることになる。 アイドリング電流が流れている状態では、直流負帰還がないために、ベースバイアスは非常にきわどい状態で抵抗値が決まっているということである。

温度補償の方法にはいくつかあるが、サーミスタやダイオード、バリスタなどの負の温度係数を持ったものを用いるのが一般的である。 しかしもともとサーミスタにはあまり電流を流せない。 これはサーミスタに電流を流すと自己発熱により抵抗値が下がり、さらに発熱し、どんどん温度がかけ離れていくからである。 そのために一般にはダイオードが良く使われる。”ダイオードの変化は同じダイオードで”、である。
比較的電力が小さい場合は、この補償用のダイオードにあらかじめ電流を多く流しておく。 RF電力トランジスタのベースバイアスよりわずかに電圧の高い定電流源とし、ここより直列抵抗を通してベースに電流を流す。 ちょうどツェナーダイオード1本による電圧安定化電流源と同じ方式である。 違うのはこのダイオードを発熱元に熱的に結合させてやり、 温度に応じて電圧が変化し、 ベースに流れる電流を安定化させていることである。 必要なベース電流になるようにダイオードにかかるバイアスや、この直列抵抗を調整する。

電力が大きくなるとベース抵抗も低くなり、電流も多くなるからこの方法が採れない。この場合は定電圧方式をとる。 NPNのトランジスタのベース電圧をダイオードによって作り、このエミッタ出力をバイアスとする。 このNPNのB-E間の電圧降下があるから、定電圧用のベース側のダイオード2個分とする。 この2個のダイオードをそれぞれ高周波TRと定電圧用のTRに熱結合すると温度に対して同期し、電圧が変化してアイドル電流を安定化させることができる。

これらの素子は温度係数がうまく合うものを使うこと。 また熱結合させるためにTRのパッケージやヒートシンク上の近いところに配置し、シリコングリスなどで熱結合させる。 注意するのは素子を離してしまうと熱暴走する可能性である。 また大電力の高周波のすぐ近くであるために、このダイオードに高周波の回り込みを生じ、 これによる検波整流により負電圧が生じ、このためにバイアス電流が減る方向となる。 少ないうちは動作点の移動による音声などの歪みで済むが、大きくなると発振を起こしたり、逆バイアス状態になる。 アンテナの負荷変動によっても回り込みが大きくなる場合がある。 高周波に追随しない遅いダイオードの方が良いのであるが最近は難しくなっている。直列Lや直近のパスコンなどでの回り込み対策が必要となってくる。

FETのパワーアンプでは様子が変わってくる。詳しくは省略するが、アイドリング電流が温度に対して負の特性を持っている場合は熱暴走の危険はないから、 上記のような温度補償とは全く変わってくる。

 

パワー検出 09/17

ALC制御やパワーの表示、あるいはSWR保護回路を構成するには出力パワーの検出回路が必要になる。
簡易的に行う方法としてはアンテナ出力端の高周波電圧を抵抗またはコンデンサで分圧し、ダイオードで検波する。 前にも述べたように検出電圧は高い方が安定性で有利であり、信号に与える歪みからは低い方が有利である。 その後の処理のしやすさから考えても約数V程度必要となる。 10W出力であるなら信号ラインの高周波電圧は約22V、100W出力なら約70Vであるから、 検波効率を高く取れる用に出力側を高インピーダンスで受ければ10W機では約5−6分の1、100W機では20分の1程度の分圧である。
しかしこの簡易的な検出方法は基本的に電圧検出である。すなわちアンテナインピーダンスが低い(負荷抵抗が低い)と同じ電力でも高周波電圧は低くなる。 負荷がショートして大電力が流れても検出電圧は0であり、ALCやパワーの制御に採用すれば、パワーは出ているのに制御がかからなくなる。 そのために何らかの対策が必要である。 逆にインピーダンスが高ければ検出電圧は高くなり、必要以上にパワーを抑えることになる

一つの方法としては電流制限回路を併用する事である。パワーが出過ぎないように終段へ流れる電流を監視して一定以上の電流が流れないように制御する。
また通常アンテナ端にはLPFが接続されているから、もう一つ同じ高周波電圧検出回路をこのLPFのコイル一つ分前に置く。 こうすればアンテナ端のインピーダンスが変化して検出電圧が減った場合でも、コイル一つ前の検出回路端でのインピーダンスは大きく変わっているために、 違う検出電圧が期待できる。 この両者を加え大きい方の電圧が出る様にすればよい。この簡易的なパワー検出方法はFM機などで良く用いられている。

検出回路に良くトロイダルコイルが採用される。 測定器などでは20dBカップラとしておなじみであるが、 10ターン巻いたトロイダルコイルの先に50Ωの終端抵抗、または同軸で引っ張り測定器を接続。 このコイルの真ん中に検出する高周波信号を通す。 真ん中に通すことにより1ターンのコイルとして作用するから、巻き数比1:10のトランスを形成する。 信号源からみるとこの1ターンのコイルは0.5Ω(50/10^2=0.5)の抵抗分が負荷に直列に入り、負荷インピーダンスは50.5Ωになる。 そのために50/50.5で約1/100(-20dB)の電力がこのトランスを通じて50Ωまたは測定器に入力される。
検出回路として採用するときには巻き数比は1:10にこだわらないし、同軸で引っ張るわけではないから終端も50Ωである必要もない。 必要な電圧、周波数特性になるようにトランスの巻き数と終端の抵抗を決める。ただ周波数特性的には終端抵抗は数十Ω近辺が有利ではある。 これは電流検出の回路である。(負荷に流れる電流を電圧として検出できる)  この回路ではトランスの端子のどちらをグランドに落とすかで、検出された高周波電圧の位相が180度変わる。
またバイファイラ巻きとして中点を引き出せば、この中点に対して位相が逆の2つの検出電圧を得ることができる

この電流検出と上記の電圧検出を組み合わせると進行波電力、反射波電力の検出ができる。 詳しくは書かないが、この両者を回路的に合成し、電圧検出と電流検出の位相と振幅がちょうど合うようにすれば検出電圧は2倍、 逆に打ち消す様にすれば検出電圧は0となる。 これは50Ω整合時の話である。50Ωからずれればそれぞれの振幅が変化して2倍や、0Vではなくなるし、 リアクタンス分が存在すれば電流と電圧の位相は変化するから合成された検出電圧も変化する。倍になる方を進行波、打ち消される方を反射波検出とすればよい。 同軸線路を利用したSWR計等に比べて検出電圧の周波数特性は一定であるから、パワー制御などには都合が良い

本来電力は電圧x電流であり、この方法は電圧+電流のように見えるため、正しい表示をしているようには見えません。
しかし計算してみると解るが、例えば100Ωの負荷(SWR=2)に同じ電力が供給された場合、 電圧検出側は約1.4倍(ルート2倍)になり、 電流検出側は約0.7倍で、純抵抗で有れば位相は一致するために進行波検出電圧としては合成で約2.1倍となり正しく進行波電力を示します(約12%の反射電力がある)。送信電力として使うには 本来の2倍に対して約6%の誤差、 これを送信機での計測電力誤差としては約12%の誤差にしかならない。 SWR=3でも約2.6倍で30%の誤差電圧、約68%の計測電力誤差である。
同様に反射電力検出側を計算しても同じ誤差である。
進行波と反射波の比から計算されるSWR計測としての誤差は出ない。出てきた検出電圧を高効率でダイオード検波すれば良い。

補足(2002年5月4日)
上記で表示、計算されているのは進行波電力です。この方法は進行波電力、反射波電力としては正しい値を示します。一般にSWR計での送信機からの電力として考えてしまうのはこの進行波で表示された電力です。また送信電力の表示、制御、ALCもこの進行波電力の検出を利用して行われています。
負荷で本当に消費されている電力は、進行波電力−反射波電力です。従って本来の電力を表示するためには進行波で表示されている電力から、反射波で表示されている電力を引く必要がありますが、SWRが低いうちは大きな差が出ません。この100Ωの場合の反射電力として表示されるのは(1.41-0.7)/2=0.35 電圧で35%、電力で約 12%、進行波電力の表示から反射波電力の表示を引けば誤差は出ません。これをスミスチャートに表して解析したものをいずれ書いてみようと思っています。